『スイートホームスイート4』(佐々原史緒/ファミ通文庫)

 シリーズ最終巻です。
 前巻の引きが引きでしたから、てっきり、ヴァチカンとの全面戦争に突入か! ってなことを想像していましたが、そうはならなかったので拍子抜けなようなホッとしたような気分です。とは言え、現代を舞台にしている以上そんな血なまぐさいことが起きると考える方が不自然なわけで、その代わりにカトリック原理主義者がお目付け役として赴任してくるってのはむしろ面白いですね。こういう宗教的な要素や歴史的背景、世界情勢などを、重くし過ぎることなく、かつ、小ネタ以上のものに仕上げてストーリーに絡ませてくる手腕はホントに巧みです。基本ドタバタコメディのストーリーがときどきピリッと引き締まって読み物としてとても面白いです。オーストリアオーストリーになったネタがさっそく登場する辺り、フットワークがとても軽いですね(笑)。
【参考】オーストリー大使館商務部
 ヴァチカンの方はとりあえず静観となりましたが、それとは別のトラブルがまた降ってきて、それに追われて危機一髪の自体に陥ってさあどうなるどうなる? と、まあ大団円に向かってまっしぐらの展開です。別に予想外のラストみたいなのをこのシリーズに望んでるわけではないので、これはこれでよろしいのではないでしょうか。広げに広げた風呂敷も、この巻でさらっと畳まれてますし。ってか、セルゲイはもう少しトラブルメーカーになるのかと思いましたが実は(?)いい奴で、アデルの過去もあっさり目でした。これはいい意味での軽さ、と捉えるべきなのでしょうね。過去を踏まえた上での明るい未来こそがこの物語の本質なのです。”世界で一番いらない遺産”から”世界で一番すてきな遺産”まで、とても綺麗な流れ・結末だと思います。
 ただ、日本刀が手に入る下りはちょっと唐突というか、こういうのには少しでもいいから前もって伏線が張られてたらいいのにな、と思っちゃうのはミステリ読みの悪い癖かも知れませんね(笑)。妖怪・妖精・モンスターといった人外の化け物さんたちがたくさん登場するのに、終わってみればそっち方面の薀蓄がほとんどありませんでした。私はそうした薀蓄が嫌いじゃないのであっても良かったとは思うのですが、そっちに走っちゃうとテーマがぼやけちゃう恐れがあるので、そうした薀蓄を最小限にとどめた選択は大正解だと思います。細かい設定にこだわらない化け物さんたちのキャラクタもコミカルで楽しいですしね。
 ファンタジーだけど現代を舞台に地に足がしっかりとついたホームコメディとなっています。少々地味目ではありますが、安定した面白さを持った佳品として満足のシリーズ最終巻でした。
【関連】プチ書評 『スイートホームスイート1〜3』