『図書館危機』(有川浩/メディアワークス)

 遅ればせながら有川浩『図書館危機』を読みました。激甘ラブにそれほど興味のないアイヨシとしては、図書隊の今後が気になるところです。で、やはり『ねじれたコトバ』が一番面白かったです。事件解決のための”裏技”は確かに見事なもので大変楽しませてもらいました。他にも、組織内外の軋轢とその中での各隊員たちの苦悩(柴崎は楽しんでる?)とかも面白いです。あと、『王子様、卒業』は、郁と堂上の関係はともかくとして、『レインツリーの国』とかで取材した題材が巧みに活かされていて上手いなぁと思いました。前の巻では少なかったバトルパートも本書後半では全開ですし、至福の読書時間を堪能させていただきました。
 ただ、メディア良化委員会が検閲の何に誇りを見出しているのか、それは一生理解できない問題だし、彼らの理論は手塚には理不尽としか思えない。(p274より)って記述を見る限り、本シリーズ内では良化委員会側の顔というのは描かれることはないのかも知れませんね。だとしたら、彼らの言い分も聞いてみたかっただけにちょっと残念ではあります。
 それと、これは重大な欠陥だと思うのですが、法律的に見るとおかしなところがあります。日本の裁判は地方裁判所高等裁判所最高裁判所からなる三審制です。で、地方裁判所の判決に不服がある場合に高等裁判所へその判決の変更を申し立てることを控訴、高等裁判所から最高裁へのそれを上告と言います。つまり、

地方裁判所⇒(控訴)⇒高等裁判所⇒(上告)⇒最高裁判所

ということになります。で、p159において”上告”という言葉が使われているのですが、事件が地方裁判所から高等裁判所へ移ったということですので、”控訴”が正しくて”上告”は間違いです。(控訴と上告をひっくるめた概念として”上訴”というのがありますが、お上に訴える、だと何だか江戸時代の言葉みたいですのであまり使われませんね。)
 それと、確かに民事事件においては裁判所からの和解勧告によって紛争が解決されることは多いですが、和解が成立しなかった場合には、裁判所は判決を下します。で、その判決に不服のある側(当事者双方が不服な場合もあります)が控訴なり上告なりをすることになります。しかし、本書の場合では和解案に応じられないということから即、舞台が上級審である高裁に移っちゃってます。これも誤りで、高等裁判所に事件が持ち込まれているのなら、地方裁判所で何らかの判決が下されてなければなりません。また、高裁判決の和解内容(p168)というのも、判決と和解は別物ですからどっちかはっきりしてもらなわいと紛らわしいですね。
 こうした点は、テクニカルでありながらも説得力のある秀逸なアイデアなだけにリアリティは大事だと思うので、できたら何らかの機会に訂正されることを希望します。
 あと、”煮詰まる”の使い方(p173)も気になりますが、これはもうアイヨシみたいなのが少数派ということなのかも知れませんね(泣)。
 何かケチつけてばかりみたいになっちゃいましたが、面白かったことには変わりがありません。次で最終巻ということですが、どのような結末を迎えるのか、首を長〜くして待ちたいと思います。
【関連】
フジモリの書評 有川浩『図書館戦争』
フジモリの書評 有川浩『図書館内乱』
フジモリの書評 有川浩『レインツリーの国』
フジモリのプチ書評 有川浩『図書館危機』

図書館危機

図書館危機

【追記】修正の予定があるとのことです。素早い対応ですね。