『スイートホームスイート1〜3』(佐々原史緒/ファミ通文庫)

 アイヨシがひっそりこっそり巡回しているサイトのひとつ、入院した、本でも読むかさんが、特に3巻を高く評価していたこともあって、ちょっと読んでみました。
(以下、ネタバレじゃないけど長いっす。)
 1巻はイントロダクションとしての役割を担ってます。高校を卒業したばかりの一彦は、突然ヨーロッパの小国へと拉致られます。そいでもって、自らがその小国の領主の血を継ぐ者であることを知らされます。しかも、そこはブラウニーやら吸血鬼やらの人外の化け物たちの住む国で、領主の血を継ぐものでないとそれらを治めることができなくて、一彦はしぶしぶ領主としての勤めをこなすことになるが……ってな感じのストーリーです。
 人間と人外の者とが一つ屋根の下で暮らすドタバタコメディーというのは割りとよくあるパターンではあります。そのルーツを、D&DのようなRPGのパーティのファミリー版と見るべきか、はたまた、か〜いかいかいの『怪物くん』と見るべきか、それとも他に相応しいものがあるのかはアイヨシには分かりませんし、きっと他の誰かが考察済みのことでしょうから、ここではこれ以上考えるのをやめにします(笑)。
 ともあれ、そういう物語での人外とは個性を強調した、いわば人間のデフォルメのような存在です。つまり、人にはそれぞれ個性があるけどみんな仲良くやっていきましょう、という基本的な価値観があって、それを軸にドタバタが展開されていくのがセオリーです。物語としてはとても安定させやすいでしょうし、読んでてもそれなりの安心感があります。そんな人外の者たちと人間である一彦と、それから一彦の曾祖母に当たるアデル(ただし年齢は一彦とそれほど変わらない)といった登場人物たちの間にそれなりの絆が生まれるのが一巻です。
 続く2巻では、領主の血を絶やさないためのアデルの策略で一彦は社交パーティに強制参加させられます。しかし反抗して逃亡して帰っちゃうわけですが、途中で知り合った美少女が……とまあ、お約束な展開ではあります。でも、一彦が社交パーティーに参加させられる理由にナチス・反ナチスといった世界大戦当時の事情がさらっと使われたり、共産主義国家からの聖職者の亡命といったことがこれまたさらりと持ち出されたりと、ヨーロッパの小国といった設定がさり気なく、しかし巧みに使われているところが好印象です。
 その印象は3巻になって一層強いものになります。一彦は、病院で知り合いその後再開したロルフというTV会社に勤務する人物と親しくなり、一彦の居城・フリューゲルト城の取材をさせて欲しいと頼まれます。この依頼に一彦は困らされます。理由のひとつは、もちろんフリューゲルト城は人外の化け物の巣窟だからというのがありますが、もうひとつ理由があります。それは、アデルがユーゴスラヴィア出身で、その内戦の悪化の原因のひとつとしてマスコミに強い不信感を抱いていることにあります。こうした事柄をコメディタッチの物語に取り入れることはとても難しいことだと思うのですが、その点本書は実に自然に、だけど大事なこととして丁寧に扱われてます。それによって物語に重みというか深みが生まれていることは間違いないです。
 こうして見てくると本書の場合、人間と人外の化け物とが仲良く暮らすという設定は、人間のデフォルメというよりは、国家間の関係のデフォルメというか圧縮といった側面の方が強いのかも知れませんね。実際、一彦は内輪のことより外との関係に頭を悩ませることの方が多いですしね。
 そんなわけで、本書は面白いことは面白いのです。しかし、上述のような楽しみ方が地味なものであることは否めません。というのも、バトルはどうもイマイチだし、ラブコメとしては唐突だし、主人公の内面はもう少し掘り下げた方がいいんじゃないか、とかがあります。とかく派手なものが好まれやすいのがライトノベルの現状ですから(多分)、ちょっと苦戦かもと思わないでもないです。
 ただ、個人的には好きなんですよね。一彦はドイツ語は片言しかしゃべれないから自然と簡潔な語り口になっちゃって、それがかえって率直で素朴なセリフとなっているところなんかは面白いと思いますし、唐突じゃないかと思いつつも一彦とアデルの関係はそれなりにニヤリとさせられるものはあります。3巻の巻末にある参考文献一覧を見ると、ホントに苦労して書き上げたんだなぁ、というのが分かります。
 次が最終巻(2007/02/28発売予定)ということですが、作者ならずとも不安になるほど広げてしまった風呂敷をいかに畳むのか、何気に楽しみにしております。
 ちなみに、ユーゴスラヴィアに興味のある方には、米澤穂信『さよなら妖精(書評)』が一押しです。現在は文庫版が出ておりますので未読の方にはそちらをオススメしておきます。ってか、私の場合は、『さよなら妖精』でユーゴに興味を持ったので本シリーズを読んだという側面もありますけどね(笑)。
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さよなら妖精 (創元推理文庫)

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