『少年検閲官』(北山猛邦/東京創元社)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

少年検閲官 (ミステリ・フロンティア)

 何人も書物の類を所有してはならない。もしもそれらを隠し持っていることが判明すれば、隠し場所もろとも灰にされる。そんな世界で『ミステリ』を追い求める少年が主人公の物語です。
 北山猛邦=物理トリックという印象があるだけに、本書のあらすじは新境地を思わせるものとしてとても期待しておりました。
(以下、ネタバレ気味の駄文です。)
 書物が失われた未来世界での物語と言うと、私などはウォルター・M・ミラー・ジュニア『黙示録3174年(書評)』が思い浮かびます。『黙示録〜』において守られるのは神の知識・求められるのは科学の知識なわけですが、本書の場合は『ミステリ』です。とても面白そうな設定だなぁ、と思ってましたし、実際最初は面白いと思ってました。にもかかわらず、途中から、『ガジェット』という小道具が出てきた辺りからダメになってきました。それまで姿が見えず曖昧で、それだけに魅力的だった『ミステリ』が、具現化されたとたんにチープになっちゃったというか、それだと東野圭吾『名探偵の掟(書評)』みたいなものになっちゃって、それでいて雰囲気は幻想的で切れ味には欠けるので、何だかボンヤリしてるのです。それに『ガジェット』で割り切っちゃうとミステリとしての奥行きがなくなってしまうと思うのです。例えば、密室』というガジェットがあったとして、でも密室は特定の空間内での存在不可能性という意味では『アリバイ』とも言えるわけですが、そうした多面性がガジェットとしてしまうことで失われてしまうと思うのです。本書は続編が用意されているみたいですが、その点が今からちょっと心配です。
 いや、それはまあそれでいいのかもしれないのですが、結局何が駄目なのかと言うと、つまるところ結末がそりゃないだろうって思わずにはいられないわけで、もったいないと思わずにはいられません。
 検閲ってくらいなのですから、ミステリの、ひいては読書そのものの暗黒面をえぐいぐらいにえぐり出してくるのかと思ったらそうでもなくて、この点もちょっと意外でした。もっとも、検閲をテーマにした作品だと有川浩『図書館戦争(書評)』というメジャーな傑作がありますからそっち方面で対抗・オリジナリティを出すのも大変ですしねぇ(←何様?)
 てなわけで、新境地なことは間違いないと思いますし、いろいろと苦労・工夫してるなぁというのは分かるのですが、何とも言いようのない不満が残る一冊でした。むにゃむにゃ。