『クライマーズ・ハイ』(横山秀夫/文春文庫)

 1985年8月12日、御巣鷹山日航のジャンボ機が墜落した。地元紙の遊軍記者・悠木は全権デスクに任命される。デスクとして墜落事故と向き合うことになった悠木だが、それによって自らの人生そのものを賭けた局面を迎えることになる、ってな感じのストーリーです。
 著者自身この当時地元群馬の上毛新聞の記者であったことはよく知られています。当時の事故の模様や取材の様子・困難などを、これ以上ないくらいに著者は知り抜いているわけです。
 それだけに、ノンフィクションとして描くことも可能なはずなのですが、本書はあくまでフィクション・小説として描かれています。その辺の微妙な心理は正直図りかねるものがありまして、本書の書評の難しさを私に感じさせてる要因だったりします。
 とはいえ、本書が傑作であることは間違いありません。日航機墜落事故という非日常的な出来事によって、それまでの日常的な紙面作りの微妙で歪んだパワーバランスが浮き彫りとなります。
 デスクという離れた視点から事故は描かれますが、それによって、子供だったころのアイヨシがこの事故をどう思っていたかという記憶がまざまざと甦ってきます。それだけ衝撃的な事故でした。
 新聞記者としての生き様をギリギリまでに見つめ直した本書ですが、そのことが皮肉にも新聞というメディアの限界を露呈してしまっているようにも思います。
 とにもかくにも傑作なのでオススメです。

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)