『となりの関くん』作者のグルメエッセイ!? 森繁拓真『いいなりゴハン』
- 作者: 森繁拓真
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/12/10
- メディア: コミック
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作者の姉は、同じく漫画家の東村アキコ。『主に泣いてます』や『海月姫』などのコメディを描き、また自身の育児経験を元にしたエッセイマンガ『ママはテンパリスト』がヒットした売れっ子漫画家です。
本作は、作者・森繁拓真が姉・東村アキコの指名したご飯やさんにいっていろいろ食べるという、この上なくシンプルなグルメエッセイなのですが、作者の個性がでて非常におもしろかったです。
1話目の冒頭で、このマンガを描く経緯について語られます。集英社の担当からお声をかけられ、喜び勇んで行ったところ、エッセイマンガを描くように言われた作者。
実は、姉・東村アキコが事前に企画を打診していたのでした。
お前 今のうち仕事 増やさんか
これから不況でもっと厳しくなるんやから
やるならエッセイ物がいい!
忙しい現代人は 難しいストーリーより現実的でタメになるネタを喜ぶから
私も色々描いたけど『ママはテンパリスト』が一番ウケた
あれ描いてなかったらヤバかった
エッセイ物で読者を増やす
で 自分の他の漫画を読んでもらう
そうやってファンを増やしてくのが今は正しいと私は思うね
(P5)
悲しいけどこれ、現実なのよね・・・。
そうして姉のいいなりで本作を描き始める作者。そして姉のいいなりで食べ物屋さんを巡ります。
個人的には、1話目で大阪の十三(じゅうそう)のホルモン屋、というチョイスからして絶品でした。近所ですし(笑)。
食べものについては、これまた非常においしそうに食べています。いやいやながら行った店で意外とおいしい、というギャップがまた良いのかもしれません。
*1
2話目以降、姉や担当など大勢で飲み食いするのですが、強引な姉にツッコミを入れつつ振り回される様は、『となりの関くん』の関くんと横井さんの関係性を彷彿とさせます。そういう意味では、作風の源泉がかいまみれて非常におもしろかったです。
作者の新たな一面といつも一面を併せて楽しむことができる一冊。『いいなりゴハン』というタイトルもまた「言い得て妙」です。姉のもくろみ通り、この作品から多くの「森繁ファン」が生まれれば良いなあという思いを込めて、オススメいたします。
- 作者: 森繁拓真
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2011/04/23
- メディア: コミック
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*1:P14
痛快な毒々しさ カレー沢薫『アンモラル・カスタマイズZ』
- 作者: カレー沢薫
- 出版社/メーカー: 太田出版
- 発売日: 2012/12/06
- メディア: コミック
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風俗情報誌『風俗大王』や牛丼雑誌『月刊牛丼』で知られるグリズリー出版が、
社長の思いつきで女性ファッション誌『カスタマイズ』を創刊!
男しかいない編集部は途方に暮れるが、そこに現れたムササビのビッチ!
残念な紅一点・沢尻小雪も加わって、
女性誌『カスタマイズ』は部数を伸ばすことができるのか――!?
(Amazonあらすじより)
内容は、男とモモンガしかいない出版社が女性情報誌を手掛ける紆余曲折をドタバタと描くという、いたってシンプルな内容なのですが、とにかく、1コマ1コマに込められた「毒」がすごい。
「モテ」を追求したり「キレイになりたい」と無理する世の女性どもの理不尽さを怨嗟たっぷりにこきおろします。
「ナチュラルメイクとは自然に見せるために膨大な時間をかけたメイクのことたビー」
「全然ナチュラルじゃねぇ!」
「男はあんまりキメキメの女には気後れしてしまう
かといって木綿のハンカチーフ送ってくれとかいうイモ女ともつきあいたくない
というバカ野郎が大半を占めるから自然に綺麗に見せようとするんだビー」
(P24)
もう、なんというか、今すぐにでもコピペに使える名言が1コマに1つ以上あるとでもいうべき破壊力を最後まで保つという恐ろしいマンガなのです。
『さよなら絶望先生』の久米田康治などもあちこちに喧嘩を売っていそうなネタをこれでもかこれでもかとまぶしていますが、彼は「毒」を巧く精製し、絶妙なバランスのうえに成り立つ「笑い」に昇華しています。
ところがこの作品では、その毒をオブラートにすら包まず、むしろ煮詰めて煮詰めて原液以上に濃くしています。
そのため、1コマ1発言に2つ3つ毒が込められているセンスのあるセリフが生まれるわけです。
「あれは「ちょっと派手で個性的」なのがオシャレと思い始めているサインです!」(P52)
「女性誌における勝利は美人になることじゃねえぞ 「愛され」こそが史上!
つまり鼻毛がジャンジャン出てても男にモテれば勝ちだ」(P72)
「なんとなくでモデルになれるとはイケメン様はちがいますな!」(P92)
作者のネガティブと黒い感情が、突き抜けるが故に「笑い」となる奇跡的な化学反応を生んだ作品。万人に決してオススメできませんが、癖になる面白さをはらんだ一冊です。
【ご参考】
●うっかり笑った人だけ面白いネコ漫画 カレー沢薫『クレムリン』(三軒茶屋 別館)
●ブス図鑑(作者による販促blog)
●コラム カレー沢薫の「負ける技術」
●作者のHP「猫痙攣」
●作者のtwitter