「あの日」からのレポ漫画。 鈴木みそ『僕と日本が震えた日』

僕と日本が震えた日 (リュウコミックス)

僕と日本が震えた日 (リュウコミックス)

 ファミ通で連載していた『あんたっちゃぶる』『おとなのしくみ』や、取材を基に業界の様々な「お金」の話に切り込んだ『銭』など、ルポコミックに定評のある鈴木みそが「震災」を題材にしたドキュメントマンガです。
 震災から1年半、被災地に住まわれている方は当然ながら現在進行形の状況ですが、そこから一歩はずれると、余震でしか「あの日」を思い出さない人も数多いと思います。
 阪神大震災を被災したフジモリとしても、被災地以外の人々が震災を急速に「ひとごと」に認識していく課程をひしひしと感じていました。
 本書は、震災直後の4月下旬に、作者に震災のルポを依頼された場面から始まります。
 こんな時勢にマンガを描いていいのか、描くことができるのか。おそらく、多くのマンガ家が思ったことだと思います。
 鈴木みそは今回のギャラを全額義援金とし、そして身近なところから「震災」を描きます。
 それは当時の家族の被災状況であり、震災当時の出版状況であったり、ガイガーカウンターによる放射線の測り方であったりします。
 過剰な演出もおおげさな事柄もなく「事実」を「わかりやすく」伝える彼の作風は、震災が日本にもたらしたダメージを、淡々と読者に突きつけます。
 たとえば、出版流通について。
 「委託販売」という特殊な売り方をしている「本」という商品は、古い本を返品するときに新しい本を作って支払いを行います。震災で失われた本は売れていなかったため返品扱いとなり、出版社への損失となります。
*1
 私たちの住んでいる様々な「システム」が、「なにも起こらないこと」を前提としているという綱渡りの事実に嫌が応でも気づかされます。
 震災で失われたものは戻ってきません。
*2
 復興するまでに数十年かかるのであれば、高齢化が進む地域はどうするのか。

 戦争でも、被害を少なくしながら戦う撤退戦がもっとも難しいという。これから日本は5年10年の撤退戦を戦わなくてはならない。実際しんどいことだと思う。
(P179 あとがきより)

 事実を知ることと「あきらめること」は異なります。
 日本はバブルのツケをゆっくり払いながら衰退してきた。それに東日本大震災が止めを刺した。これは事実であり、目を背けてはいけない現実です。
 事実を正しく知ることこそこれからの私たちに不可欠なことであり、またこういった本で「あの日」を忘れないこともまた必要だと思います。
 「あの日」が薄れていく「これから」にこそ、読んでほしい一冊だと思います。

*1:P45

*2:P109