『[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ』(シオドア・スタージョン/河出文庫)

 シオドア・スタージョンの中短篇集。収録作は「帰り道」「午砲」「必要」「解除反応」「火星人と脳なし」、そして表題作「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」です。スタージョンの作品の面白さや魅力などは正直なかなか言語化するのが難しいのですが、好きな作家だけになんとか頑張って紹介してみます。
 「帰り道」は還り道とでもいうべき若さと苦さに満ちた叙情的作品です。「午砲」は、解説曰く”スタージョン自身が語るところでは、この短篇はきわめて自伝的な小説”とのことなので、作者のファンであれば必読といえる作品でしょう。ともにSFというよりは普通小説というべき内容の作品です。
 「必要」は、相手が必要としているものが何かが読めてしまう男と、そんな彼によって人生を変えられた男が描かれた中篇。必要とはどういうことか?それを求めることが、与えることが果たして幸せにつながるのか?他に必要とするものを見つけてはいけないのか?必要なもののためには不要なものを切り捨てなければならないのか?そんなことを考えさせられる作品です。
 「解除反応」スタージョンの小説によく出てくるブルドーザーが道具として使われているお話ですが、SFとしてはまさにインナースペースのお話です。主観的世界での時空間の混乱が巧みに表現されています。「火星人と脳なし」は、こうなると脳なしなのは火星人なのか地球人なのか分かりませんが、笑えるようで笑えない微妙な読み応えが堪りません。
 そして表題作にして白眉の中篇「[ウィジェット]と[ワジェット]とボフ」。自殺についての考えに取り憑かれた男、女優を夢見る女、古い考えに捕らわれた弁護士、世間を恐れる司書、未亡人とその三歳の息子。彼らが住む下宿に訪れる奇蹟の一夜の出来事は……といったお話です。[ウィジェット]や[ワジェット]といった存在は確かにSF的な存在ではありますが、それは決して超常的なものではない、というのがおそらくは作者の意図なのでしょう。本筋もさることながら、個々の登場人物(?)の描写や会話が印象に残ります。特に目を引いたのが自殺を考えるフィリップの拳銃についての考察で、自殺の手段として拳銃に不満な点は何度も仕様できることにあって、つまりは彼の死のために――ひいては生のために存在する道具ではない、というのはなかなか面白いと思います。また、質問に質問でしか返さないサムやビティの会話術は「火星人と脳なし」を、内省的な考察は「解除反応」を彷彿とさせます。加えて、自らの人生を問い直すことで導き出される結論は「必要」を彷彿とさせますし、大まかなストーリーとしては「帰り道」に通じるものがあります。そういう意味で、本書の編者のセンスに感服です。
 確かに説教臭い箇所はところどころにあるのですが、それが鼻につかないのは、本書のテーマ・関心というものが固定観念や偏見といった人の内面にあって、そうしたスタンスがぶれることなく語られる一貫した真摯な姿勢にあるのだと思います。SFファンはもとより、そうでない方にも広くオススメの一冊です。