『青春探偵団』(山田風太郎/ポプラ文庫ピュアフル)

(P[や]1-1)青春探偵団 (ポプラ文庫ピュアフル)

(P[や]1-1)青春探偵団 (ポプラ文庫ピュアフル)

 昭和31年から33年に発表されて、やはり昭和30年代を舞台とした連作短編集です。
 霧ガ城高校の6人の生徒たち。巻末の解説で米澤穂信が彼らの性格を端的に説明しています。すなわち、美男子にして霧ガ城高校始まって以来の麒麟児、秋山小太郎。柔道二段の大男だが、どうにも見かけ倒しで臆病な大久保大八。自他共に認めるあわて者、トラブルメーカーの穴山早助。モデルにしたいような美人で優等生だが、いたずら者の織部京子。柔道初段、体重十六貫三百、女豪傑の竹ノ内半子。世話やきで、心配性で、おちゃっぴいの伊賀小笹。
 そんな探偵小説愛好家の6人が結成したのが「殺人クラブ」です。物騒な名前ではありますが、人殺しをする気などさらさらなくて、むしろ身近で殺人事件が発生しようものなら率先してその犯人を暴きにかかります。もちろん、優等生の集まりというわけでもなくて、カンニングしたり寮から脱走したりタバコを吸ったり秘密基地を勝手に作ったりなどなど。そんな悪さはしていますが、しかし、その程度です。若さゆえの血気と冒険心と反骨心をもてあましているがゆえのネーミングです。まさに「青春探偵団」です。
 以下、印象に残った文章などを紹介しつつ短編ごとの雑感を。

幽霊御入来

「告げ口しない――ってのは、ちょっときくと男らしいけど、そんな連中が大人になって、おたがいにうまくやろうっていう猫ッかぶりの古だぬきの汚職政治家になるんだわ」
(本書p11より)

 まずは主要キャラの顔見せですが、途中の「金しばり」という章題がさり気なく上手いですね。

書庫の無頼漢

 学校や寮でたのしく勉強したりあばれたりしているじぶんたち、何やらえたいのしれぬ連中の手下になって肩ひじ張っているこの少年、その差が、もって生まれた頭や性質からきたのだとはゆめ思えない。星だ、運命だ。
(本書p62より)

 雪密室。足跡のない殺人。深々と降り続ける雪の情景は無常な真相そのものです。トリックもそれなりに練られていて面白いです。奇妙なラジオ体操の場面ではキョトンとしてしまいましたが(苦笑)。

泥棒御入来

 寮からの脱走(脱獄)を巡る名物鬼教師とのやりとり。悪餓鬼と鬼教師との知恵比べですが、教師側がその気になれば悪餓鬼の悪事を暴くことはできます。しかしそれをせずに、あえて悪餓鬼たちの悪さを黙認する背景には、もちろん犯罪などの深刻なトラブルとは無縁だからというのもあります。ですが、それだけではなくて、証拠もないのに悪さをしたと決め付けてはいけないという制約が教師側にあるからに他なりません。そこに、本格ミステリというフェアプレイの精神に則った知的ゲームが行なわれる基盤があるのだと思います。

屋根裏の城主

 寮の中に勝手に作った秘密基地「天国荘」。これがついに教師に見つかりそうになってしまう。殺人クラブ最大の危機に小太郎たちはいかに立ち向かうのか。建物の消失という困難なテーマに挑んだ佳品です。トリックそのものよりもメンバーの必死さが楽しいです。

砂の城

 本当に人を殺してしまった集まりと、名前だけで人殺しなどしたことのない殺人クラブとの、すれ違いから始まった浜辺の陣取り合戦。夏の海で青春を謳歌する6人と殺人団との噛み合ってるようで噛み合わない駆け引きが徐々に深刻になっていく展開には手に汗握ります。

特に名を秘す

 それは、受動的な――しかも自分で自分を追い込んだ――奇妙な、必死の探偵であった。要するに彼は、いそいで、死に物狂いに真犯人を見つけ出さなければならなかった。
(本書p285より)

 ダイイングメッセージを見事に解き明かしたかに思えた小太郎ですが、そこから思わぬ展開が待っています。ひとつの気付きをキッカケにするすると論理を展開して犯人を特定するというのはミステリではよくありますし、実際そうした論理展開は読んでて爽快です。しかし、そうしたクイズのようなもので犯人を特定してしまってよいのか。解説で米澤穂信も指摘していますが、小太郎が直面した問題は全てのミステリにとって他人事ではないでしょう。無邪気な探偵ごっこの先を暗示するものとして、本書の最後を飾るに相応しいお話だといえるでしょう。