『ビスケット・フランケンシュタイン』(日日日/メガミ文庫)

ビスケット・フランケンシュタイン (メガミ文庫)

ビスケット・フランケンシュタイン (メガミ文庫)

 少女は思案した。
 屍体を継ぎ接ぎにされ、人工的に産みだされたフランケンシュタインの怪物。
 生命の輪廻転生から外れた、神の庇護が存在しないつくりものの生命。
 ならば自分は何をして、何のために、生存するべきなのか。
 あるいは生きている意味うあ道筋すら、自分でこれから取得しなくてはいけないのか。
(本書p30より)

 1999年に密やかに発生した奇病。身体のあちこちが腐敗・変質し緩慢に全身を蝕んでいく原因不明の『病』。そんな病に罹患した少女たちの変質した身体を継ぎ接ぎすることによって産みだされたフランケンシュタインの怪物。それが彼女です。
 『病』は作中独自のものではありますが、明らかに癌を設定の元ネタとしているため、『病』によって死にゆく人類の姿には自然と癌による死、避けられない死というものを想起せずにはいられないようになっています。遺伝子に刻まれた死の定め。それは進化についての物語でもありますし、DNAを情報として捉えたときには情報子(ミーム)についての物語でもあります。ただひとりの個体として孤独を生き続けるフランケンシュタインの怪物と、滅びの道を歩んでいく人類。ふたつの種の出会いと別れの物語は、ちっぽけな人間の生と死の意味を問い直します。
 糖衣に包まれた滅びの物語。正気と狂気が交錯し、滅びと共に倫理観が徐々に削ぎ落とされていく中で、自らの生きる意味を追い求める怪物は果たしてその答えを得ることができるのか?メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』のテーマを受け継ぎつつもその先を追い求めた正統なるダーク・ファンタジーです。
 巻末にはたくさんの参考文献が挙げられています。あたかも本書そのものがフランケンシュタインの怪物の如く継ぎ接ぎのパッチワークであることを謳っているかのようです。しかし、生物を細胞レベルまで細分化するように物語を細分化すれば、およそ継ぎ接ぎでない物語など存在しないでしょう。それは人生についてもいえます。継ぎ接ぎの怪物の継ぎ接ぎの物語。他者を仲間を理解者を求め、自らの物語を紡ぐため自己をも求める怪物の美しくも醜悪な悲哀の物語。SFとしてもホラーとしてもオススメの一冊です。

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))

フランケンシュタイン (創元推理文庫 (532‐1))