『終末のフール』(伊坂幸太郎/集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

終末のフール (集英社文庫)

 小惑星の衝突や地殻変動といった何らかの原因によって人類が滅亡の淵にある世界を描いた物語となれば、特に珍しいものではないかもしれません。しかしながら、滅亡まで3年、という微妙な期間を置いた物語となると珍しいのではないでしょうか。本書の世界では「8年後に小惑星が地球に衝突して人類は滅亡する」と予告され、人々の多くが絶望感に苛まれての大パニックに陥ります。それから5年が経ち、つかの間の小康状態を迎え、一時よりは平和な生活を営んでいます。仙台北部の団地「ヒルズタウン」の住民もまた同様の生活を過ごしています。
 「人類滅亡まであと3年」という設定さえ除けば、きわめて普通の人々の姿が描かれた短編が8つ収録されています。「終末」と打とうとすると「週末」と誤変換してしまうのはありがちなタイプミスですが(笑)、本書を「それぞれの週末の過ごし方」と説明してもあながち間違いとは思いません。ただし、そこはやはり3年後の死という現実が待ち受けている以上、生というものについて意識しないわけにはいきません。世界滅亡まで3年という設定も非現実的な設定なようにも思えますが、終末論(参考:終末論 - Wikipedia)を唱える宗教の影響が今よりも強い時代・日本よりも強い国家の場合には、あながちそうともいえないのかもしれませんね。
 以下、各短編の雑感を。
 〈終末のフール〉老いた夫婦。父親に反発して家を出て行った娘。十年前に亡くなった息子。家族的”最後の審判”。〈太陽のシール〉諦めかけていた妊娠の知らせ。普通なら喜ぶところですが、これは悩みます…。余命少ない子供を産むことの是非もさることながら、出産の際に妊婦が抱えるリスクも無視できません。余命少ない世界にあって、最後まで一緒にいてくれる人の存在の大事さは計り知れません。〈籠城のビール〉マイナス×マイナス=プラス?(苦笑)。〈冬眠のガール〉残された時間を読書に費やす主人公の女性に共感できすぎて困ります(笑)。〈鋼鉄のウール〉”強さ”を追い求めることの無意味さが、しかしながら、こうした状況ではとても映えます。〈天体のヨール〉なるほど。確かに天文ファンにとってはこれ以上ない格好のショーでしょうね(笑)。〈演劇のオール〉滅亡を前にしたパニックでそれぞれに家族を失った人々。演じること・演じられることが絆となります。〈深海のポール〉なぜ生きるのか?死に対していかに臨むか?当たり前の結論が嬉しいです。
【関連】
http://www.shueisha.co.jp/hillstown/
http://www.s-woman.net/isaka-koutarou/1.html