カラスヤサトシ『萌道』竹書房

萌道 (バンブー・コミックス)

萌道 (バンブー・コミックス)

 自らの痛い過去をペーソスを交えながらもコミカルに描いた『カラスヤサトシ』の作者、カラスヤサトシが各地の萌えスポットを周ったエッセイマンガです。
 画風はほのぼのしているのですが、描いている内容は痛々しさ満載で、なんというか、「逆に笑ってしまう」マンガでした。
 周ったところはメイド喫茶執事喫茶、王子喫茶、メイド耳掻きなどなど。フジモリは一度だけ行ったことがありましたのでわかるのですが、特異な空間(まさに異世界)の雰囲気が読んでる側にも伝わってきました。
 「萌え」という言葉自体はすでに使い古されていながらも、取って代わる言葉がないために今もってオタクの共通概念として用いられていると思います。巻末でカラスヤサトシが言っていましたが、萌えの世界は移り変わりが激しく、連載当初に行った店が潰れていたり当時の店員がいなくなったり、ということが多々あったそうです。まあ、個人的には「萌えビジネス」の移り変わりが激しいだけで「萌え」そのものは当分の間使われるのかな、と思っています。
 本田透『世界の電波男』にて、「「燃え」は自己研鑽、「萌え」は他者依存」という指摘がありましたが、的を射た意見だと思います。「萌え」そのものは「対象ありきの概念」ですし、ある種「信仰」に近いメンタリティだと思います。ポケモンローゼンメイデンに代表される、「他者代理バトルもの」の隆盛と無関係ではないでしょう。
 『萌道』は、なんというか「萌えビジネスを楽しむ大人」をメタ的に見ることができるという点で非常に楽しめますし、一方で作者のもつ「イタさ」と「面白さ」の絶妙な匙加減に感心することしきりです。
 まあ、「萌えるるぶ」のような観光案内というより、「カラスヤサトシ番外編」のような感覚で楽しめた一冊でした。
カラスヤサトシ (アフタヌーンKC)

カラスヤサトシ (アフタヌーンKC)

世界の電波男 ― 喪男の文学史

世界の電波男 ― 喪男の文学史