『瑠璃の方船 1』盤面チェックとか
- 作者: 夢枕獏,海埜ゆうこ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2008/01/04
- メディア: コミック
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一人の若者が小説家として大成していくまでの過程が描かれている作品ですが、小説(文学)の対比としてとても重要な役割を担っているのが将棋です。というわけで、作中でも将棋を指してるシーンや盤面が頻繁に出てきます。その中から盤面全体がハッキリしているものを2つほど紹介したいと思います。一つ目は、p11(第1図)。
●第1図
再掲になりますが、まだまだこれからのいい勝負だと思います。
そして二つ目は、主人公の桜庭誠とそのライバルである甲野城平が初めて会った日に指された運命の対局です(p44、第2図)。
●第2図
どっちが先手なのか分からないので、とりあえず見た目どおりに甲野を先手ということにしておきました。で、この局面で後手の桜庭は投了しているわけですが、ハッキリ言ってなぜ投了したのか私にはサッパリ分かりません。いや、手番がある(=攻めてる)分ちょっとだけ甲野がいいとは思いますが、しかし、駒得しているのは桜庭だし、何とか甲野の攻めをしのぐことさえできれば桜庭にだって十分勝機はあると思います。少なくとも私だったら絶対に投げません(笑)。
ってゆーか、実はこの前のページに描かれているコマとこの盤面とに整合性がないんですよね。というわけで、この図はなんらかのミスによって描かれてしまったものだと思います(←嫌な読者)。とはいうものの、本書の軸は文学を志した青年が小説家となるまでの物語ですから、将棋の描写に多少瑕疵があったとしてもそれは大目に見ることにしましょう(笑)。
自分の才能に人生を賭けることの厳しさ。文学も将棋もその点はどちらも変わりません。ただし、将棋には”勝負”ハッキリとした結果があります。勝ち負けによって己の才能を客観的に明らかにすることができます。対して文学の場合は目に見える相手は存在しません。
書くっていうのは――ものを創るってのは
その泉から水を汲み出してゆく作業なんだ。
ただ問題は――
その泉の深さが誰にも――たとえ本人にもわからないことさ。
それは試してみるまでわからないんだ。
(本書p67より)
つまり自分との戦い。孤独な戦いです。それでも桜庭には自らを文学へとかきたてる”何か”があります。だからこそ挑みます。
ちなみに、作中でプロ棋士の年齢制限が話題に上がっています。作品内の時点ではそれはそのとおりで、26歳の年齢制限は絶対です。今でも基本的にはそれは変わらないのですが、ただ、2006年にプロ編入制度が新たに創設されました(参考:Wikipedia)。厳しい条件ではありますが、意欲と才能によって年齢にかかわらずプロ棋士になる可能性が開かれています。詮無きことですが、もしこの制度があったら甲野の人生も少しは違ったのかもしれないと思わずにはいられません(注:この物語はフィクションです)。
1970年という高度経済成長期真っ只中から始まっている本作は、当時の世相とかを知ることができて個人的にとても勉強になります。この世代を生きた人間にとっては、三島由紀夫というのは大きな存在なんだなぁというのを痛感させられます(当時生まれていなかった私にとっては単なる一作家に過ぎないのですが、だからこそ、です)。ここから”今”にどのように繋がってくるのか。そして、それがどのように描かれていくのか。続きが楽しみです。