『青年のための読書クラブ』(桜庭一樹/新潮社)

青年のための読書クラブ

青年のための読書クラブ

 『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』、『少女には向かない職業』、『赤×ピンク』、『推定少女』などで、少女たちの友情や愛情を描いてきた筆者が、今度はそうした少女たちの生きる”場”としての女学校を描きました。『赤朽葉家の伝説(書評)』の女学校版とも言える作品です。
 第一章は1969年、第二章は1919年に聖マリアナ学園を設立したマリアナの物語、第三章は1989年、第四章は2009年、第五章は2019年と、まさにお嬢様学園の100年が描かれています。それぞれの章にはそれぞれ異なる少女たちが主人公となり物語を積み上げていきます。それぞれの時代の”少女性”は、時代ごとに違うところもありますが共通するところもあります。そうした少女の普遍性を生み出している空間こそが聖マリアナであり、また、そうした普遍性があるからこそ女学園なるものが存在していられるのでしょう。小中高と共学校で過ごしてきた私にとっては、女子校というのはまさに未知の空間です。ですから、こうした異空間が描かれているというだけで興味深いものがあります。『マリみて』のような比較対照をお持ちの方なら、本書をより楽しめるのではないかと思います。未知の舞台であることに加え、桜庭一樹特有の個性的な少女たちの学園生活ということで、どこまでリアリティを感じてよいのか分からないのですが(笑)、でもとても面白いです。
 そうした女子校内で起きる事件の語り手として、学園内ではアウトローの巣窟である「読書クラブ」の部員のクラブ誌によって語り継ぐという構図がとても素敵です。読書って、履歴書とかだと音楽鑑賞と並んで当たり障りのない趣味の代名詞とされていますし、ちょっと優等生みたいなイメージもありますが、実は結構アングラなものですよね。うちがまさにそんな感じですし(笑)。そんな読書の陰鬱で不健全な部分をきちんと描いてくれていることがまず嬉しいです。それに、各章の最後でクラブ誌の語り手が明らかになるのですが、そのパターンが個人的にツボです。特に第一章が印象的でした。第二章はちょっとトリッキーですが面白いです。聖マリアナ学園の創始者は、その理念の通り処女だったわけですね。『GS美神』のユニコーンの話のオチ、と言ってどれくらいの人が分かってくれるでしょうか(笑)。第三章は短いながらも読書クラブの矜持が語られる熱いパートです。第四章はとてもはっちゃけていますが一番女子校らしいエピソードと言えるかもしれません。そして第五章。無限の可能性の中にあって永遠でいられるもの。
 などと、ちょっと真面目に語っちゃいましたが、基本的には気が付いたらあっという間に読み終わっちゃったという本ですので、未読の方におかれましては気楽に読んで欲しいと思います。
俗に魂の花と呼ばれている。Wikipedia:ブーゲンビリア
【関連】
http://www.shinchosha.co.jp/wadainohon/304951/
http://www.walkerplus.com/book/bm000620/bo002197.html