笹公人『念力家族』インフォバーン

念力家族

念力家族

短歌集というあまり馴染みのない種類の本ですが、非常に面白かったです。
百聞は一見に如かず、収録されている歌を読めば本の内容が一発でわかります。

落ちてくる黒板消しを宙に止め3年C組念力先生
満員電車こころで歌うメロディーを隣の男よなぜ口ずさむ
金星の王女わが家を訪れてYMOを好んで聴けり

従来、短歌は私たちの「日常」世界の風景を三十一文字で切り取る「写真」のようなものですが、この作者は「非日常」世界の風景を詠んでいます。
「非日常」世界の「現実」。これは、大塚英志が提唱する「まんが・アニメ的リアリズム」そのものだと思います。
キャラクター小説とは「非日常」世界(あえてこれを「もうひとつの世界」と呼ぶことにします)でのキャラクタをリアリティたっぷりに描く小説であり、いわゆる「マンガ」「ライトノベル」もこの文法で書かれています。
すなわち、『念力家族』は誤解を恐れずに言えば「ライトノベル短歌」なのです。
ライトノベルが非日常の世界でリアリティを追求するのと同様に、『念力家族』をはじめとする笹公人の作風は、非日常の世界の風景をリアリティたっぷりに切り取った作品と言えるでしょう。
いわゆる普通の人々にとってはSF短歌、オカルト短歌、ファンタジー短歌と誤読されていますが、マンガやライトノベルの文法に慣れている人にとっては、「もうひとつの世界」の風景を鮮やかに三十一文字で切り取った「写真集」なのです。

念力姫

念力姫

念力図鑑

念力図鑑