『あなたの街の都市伝鬼!』(聴猫芝居/電撃文庫)

「人と人とが接するとき、そこには必ず鬼がおる。良きにしろ悪しきにしろ、人は鬼から離れられん。そうして生まれた心の鬼が形を成し、それが人の間に伝えられることで伝鬼となる。都市伝説というのは、そうやって人と人との間に伝えられることで存在する鬼なのじゃ」
(本書p45より)

 第18回電撃小説大賞金賞受賞作品です。
 16歳の誕生日を迎えた高校生・八坂出雲。民俗学者を目指す彼は師事する教授に勧められて都市伝説の編纂者になることを決意する。その日から、彼の周囲に”ムラサキカガミ”を始めとする様々な”都市伝鬼”が現れるようになって……というお話です。
 っていうか、紫の鏡テラナツカシス。思い返せばこの都市伝説、私が中学生の頃にちょっとした話題となりました。私の中学校では確か、20歳の誕生日に「紫の鏡」という言葉を覚えていると死ぬだか呪われるだか不幸になるだか(死ぬ、だったかしら?)でそこはハッキリとは覚えていないのですが、いずれにしても、嫌がらせ、かつ、自爆的に「紫の鏡」という言葉を口にして、相手に忘れさせないようにするということが瞬間的に流行りました。今にして思えば、紛うことなき黒歴史です(苦笑)。
 そんな「紫の鏡」を始めとする都市伝説の擬人化とでもいうべき”都市伝鬼”が主人公に編纂してもらうために姿を現しては、妖怪まで絡んできてドタバタエピソードが発生するというのが本書のコンセプトです。思うに、「人と人との間に伝えられることで存在する」という都市伝鬼の本質を端的に表わしているのが、ムラサキカガミ(紫の鏡)の都市伝説だといえます。その意味で、都市伝鬼の中からムラサキカガミことサキに本書のヒロイン役が割り当てられているのは妥当な選択だといえます。
 編纂者に自らの存在を書いて欲しいがために集まる都市伝鬼たちという設定は、名前を返してもらうために集まってくる『夏目友人帳』の裏返しのようなものかと最初は思いました。とはいえ、物語の雰囲気はかなり違います。特に、都市伝鬼たちには程度の差こそあれ「恐怖」という共通の特徴があります。それゆえのB級ホラー的な描写から生まれるドタバタコメディ的な展開が、本書の薀蓄臭を中和しているといえます。
 都市伝説とは何か?都市伝鬼とは何か?といった総論から始まって、ムラサキカガミやコトリバコ、ベッドの下の斧男、メリーさんといった都市伝鬼の紹介(何故かみんな女の子。ま、お約束ですね・笑)や都市伝鬼と妖怪との違いといった各論が、説明チックにならない程度のバランス感覚で述べられながらのストーリーです。お話としては設定の基本説明や主要キャラの紹介が終わってこれから、というところなので、今のところはよくも悪くも無難な展開です。思い出したくもない黒歴史(←まさにムラサキカガミ)を思い出したのも何かの縁です。続きが出たら読んでみたいと思います。
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