『星図詠のリーナ3』(川口士/一迅社文庫)

星図詠のリーナ〈3〉 (一迅社文庫)

星図詠のリーナ〈3〉 (一迅社文庫)

 あれれ?終わっちゃったの?残念……。
 マッピングファンタジーとして本書に期待していたのは、リーナが地図作りを続けていくうちに明らかとなっていく世界の姿とその過程でした。すなわち、大陸の中の白紙部分が徐々に埋まっていき、さらには海図が描かれ(本書は海図のお話です)、他の大陸も描かれ、さらにタイトルどおり星図が描かれるとします。すると、自分たちが住んでいる世界と星との関係が問題になってくるはずです。果たして空が動いているのかそれとも大地が動いているのか……。まあ、天動説と地動説の対立は現実にあったお話なので、それをそのままフィクションに持ちまれてたらそれはそれでどうかと思いますが、それでもリーナが提唱する世界の姿と有力な宗教の教義とが対立する展開というのもそれなりに面白かったと思いますし個人的には期待してました。まあ、そんな勝手な展望は置いとくとしても、リーナ一行にはもっと寒いところとか暑いところとかいろいろと旅して欲しかったです。
 一方で、本書はファンタジーでもあります。なので、別に世界が現実のそれと同じ姿をしている必要はありません。大地が球体ではなくて平面であっても構いませんし、はたまた亀の甲羅の上に乗っかっていても構いません。いずれにしても、そんな世界の壮大さが壮観に描写されるのを期待してました。
 で、そうした期待は本書で一応は満たされてます。もっとも、その過程はいかにも駆け足ですし、過程が駆け足なだけに、そこで明らかにされる世界の姿についてもいまひとつピンとこないのは否めません。やはりあと2巻くらいは欲しかったような……。
 とはいえ、タイトルにある”星図詠”の意味が明らかとなったりあるいは竜と世界の関係が明らかになったり、さらには微妙な関係だったリーナとパルヴィの姉妹の関係に歩み寄りが見られたり、さらにさらに微妙な関係だったリーナとダールの関係にもそれなりの区切りがついたりと、物語としての収束自体は実に見事だったと思います。
 それでも、個人的にはもっと続いて欲しかったです。お姫様という立場にある主人公がいろんな場所に行って地図を描くという設定は、単なるマッパーにとどまらず地理と政治との関係を扱う地政学の意義を考える物語としてまだまだ発展性があったと思うのです。何より1巻も2巻も、そして本書も面白かったので、終わってしまうのはしょんぼりです。なまじ本書で綺麗にオチが着いてしまっているだけに、続きが出ればなぁ、とは言いづらいのもまた残念です……。
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