『フリーランチの時代』(小川一水/ハヤカワ文庫)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

フリーランチの時代 (ハヤカワ文庫JA)

 ”僕たちの幼年期の終りがやってきた!”というオビの謳い文句どおり、小川一水版”幼年期の終り”5編が収録された短編集です。

フリーランチの時代

 表題作。イーガンの『ディアスポラ』を裏側から見た作品だといえるでしょうか。あっさり淡白な味わいの展開と投げっ放しのオチが好印象です。幸福追求権の極北ともいえる生き方の先に本当の幸福があるのかどうかは難しいところですね(笑)。

Live me Me.

 作中では生と死と脳死(参考:Wikipedia)の問題に焦点が当てられていますが、主人公が置かれている状況を考えると植物状態(参考:Wikipedia)の方が近いのではないかとも思います。いずれにしましても、これから先の科学技術の発達によって、「人間であること」と「生物であること」との乖離は倫理的にも法的にも避けられない問題なのでしょうね。菅浩江『アイ・アム I am.』と併せて読むとより複雑な気分になれるのでオススメです(笑)。

Slowlife in Starship

 宇宙飛行士にとって閉鎖空間での孤独というのは解決困難な問題とされていますが、それを現代的な現象である”引きこもり”と結び付けた点でアイデアの勝利ですね。もちろん、ただそれだけでは終わってなくて、地味ながらも秀逸な一品だと思います。

千歳の坂も

 森山直太朗の新曲『生きてることが辛いなら』歌詞に賛否というニュースがありましたが、そうした問題が不老というSF的ガジェットによって浮き彫りにされているのが本作です。国家という組織は人間という定命の存在によって構成されることを前提としています。そうした前提が崩れたときに、国家から個人へのパターナリズムは意味を持ちうるのか。生きる意味、何て考え出すと不毛な気もしますけど、そういうことを娯楽として考えさせてくれるのがSFの素晴らしさだと思います。

アルワラの潮の音

 『時砂の王』のスピンオフ作品です。『時砂の王』が完成度の高い作品であるだけに、本作のようなのは蛇足のような気がしてならないのですが、それなりに面白いのも確かなので悔しいです(苦笑)。