私家版2013年「このマンガがすごい!」ベスト10

このマンガがすごい! 2014

このマンガがすごい! 2014

はやいもので2013年もあと2週間近く。年末の風物詩である「このマンガがすごい!2014」も発売され、俺マン2013もそろそろ始まりつつあります。
2013年の漫画を振り返るという時流に乗って、フジモリも毎年恒例の私家版ベスト10を挙げてみました。酒の肴にするもよし、自分なりのベスト10の参考にするもよし、お代は見てのお帰りです。
ちなみに私家版です。2013年に1巻が発売された本の中から選ばせていただきましたのであしからず。(順位も付けていません)(←ほぼコピペ)

荒木飛呂彦岸辺露伴は動かない

もー私家版ベスト10の特別枠で「荒木飛呂彦枠」を設けてくださいよー、と思わず訴えかけてしまいたくなる(←誰に?)、ベスト10入りは必然ッ!だった1冊。
このblogの読者でしたら10人のうち15人は読んでいるかと思われる、説明不要な「ジョジョの奇妙な冒険」スピンオフ。
ジョジョ以上に奇妙で洗練された「サスペンス」な短編集。1話目以外岸辺露伴が動いているよなーというツッコミは100万回いわれているかと思いますが、ポップコーンを食べたりトウモロコシを食べたりアワビを密漁したりするだけなのにこんなにハラハラドキドキして「面白いッ!」唯一無二の漫画だと思います。あれ?食マンガ?
第1話から16年の時を経て単行本化。グレートです。

穂積『さよならソルシエ

荒木飛呂彦枠を除いた9作のうち、あえて順位をつけるとすると・・・と考えたのですが、上位4作が高いレベルで競ってしまいやはり順位をつけることができませんでした。
とはいうものの、「2013年に1巻が出て、なおかつ年内中に完結した」ことを考慮して本作を一番最初にリストアップしました。
このマンガがすごい!2014」オンナ編1位ですが、集計は2巻が発売される前。作者インタビューにもありましたが、結末については賛否両論でしょうから集計時期がもう少しずれていたらランキングは下がっていたかもしれません。
そして逆に、フジモリはあの結末で完結したから「こそ」最上位に挙げました。
ゴッホと弟という史実をなぞる物語を予感させ、二人の関係性とその立ち位置を丁寧に描きながら、デビュー作『式の前日』で魅せた手法をさらっとぶち込む。
長期連載を期待した読者には肩すかしだったでしょうが、フジモリは「うわ、やられた」と心からシャッポを脱いだ作品でした。
今後何度となくスレが上がるであろう「5巻以内に完結した名作教えて」に間違いなく名前が上がるであろう漫画だと思います。
●三軒茶屋別館 プチ書評 『さよならソルシエ』

坂本眞一イノサン

さよならソルシエ』と同じく実在の人物の史実をなぞった物語ですが、こちらは「凄惨、だからこそ美しい」とでも称すべき作品です。
実在した死刑執行人シャルル-アンリ・サンソンの生涯を独自の解釈で丹念に描くこの漫画、ジョジョ7部『スティール・ボール・ラン』のジャイロ・ツェペリのモデルという好意フィルタを除いてなお、彼の生きざまに興味が湧きます。
この作品を含め、いま最もアツい漫画雑誌はヤングジャンプだと思ってます。
●三軒茶屋別館 プチ書評『イノサン』

小原愼司『地球戦争』

地球戦争 1 (ビッグ コミックス)

地球戦争 1 (ビッグ コミックス)

毎年「このマン」や「俺マン」と自分のベスト10を比較するのですが、面白いことに「上位(ベスト10)」3分の1、「中位〜下位」3分の1、「ランク外」3分の1と気持ちよいぐらいに分散しています。*1
この作品も間違いなく世間の評価とフジモリの評価に「耳がキーンとなる」ぐらいの高低差がある漫画、すなわち「もっともっと面白さを知ってもらいたい漫画」です。っていうか、「このマン」でランクインどころか名前すら出てこないってどういうことよ。どういうことよ。
本作『地球戦争』をあえてキーワードで表すなら、「ド直球SF」「ジュブナイル」「一周まわって新鮮な古典」でしょうか。
H.G.ウェルズ『宇宙戦争』を直接のモチーフとした、地球外生命体の侵略と少年少女の逃避行の物語。
銅版画を思わせる見開きの決めゴマや毎回何が起こるかわからない展開など、読者のレトロごころを巧みにくすぐりながら「安心して」ジェットコースターに乗っているかのような読み心地。
知っておいて損はない1冊だと思います。
●三軒茶屋別館 プチ書評 『地球戦争』

九井諒子『ひきだしにテラリウム』

ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

この作者も特別枠が必要だなぁ。
フジモリの私家版ベスト10では常連の、九井諒子3作目の短編集です。
この2年間で知名度が若干上がりつつあり、そこそこの規模の書店であれば必ず特設コーナーが設置されているような気がします。
おそらく作品が出始めた当時のフジモリと同じく、書店員の方々が「この作品をもっと知ってもらいたい!」という想いを持っているのだと勝手に解釈しています。
3作目の本作『ひきだしにテラリウム』は短編よりもさらに短い「ショート・ショート」集。
作者の地に足ついた世界観と地力を基盤に、時代も場所も登場キャラもシリアス・ギャグの緩急も、はたまた絵柄までもさまざまいろいろに奏でられる物語たち。
「物語」を純粋に楽しむことができる一冊です。高値安定。

施川ユウキバーナード嬢曰く。

「ギャグは対象範囲が狭ければ狭いほど破壊力が増す」とは久米田康治の発言だったかと思いますが、「特定ジャンルあるある」系のギャグはまさにピンポイントが故の破壊力を持っていると思います。
バーナード嬢曰く。』は特に極めつけ、「にわか本好きあるある」というニッチすぎるわりに意外と該当者が多いんじゃないか?と思ってしまう「あるある」漫画です。
その作品に興味を持っていたのに、これから読もうというタイミングでアニメ化や映画化のニュースを聞くと負けた気がすること、あるよねー。(←虚空に向かって)
●三軒茶屋別館 プチ書評 『バーナード嬢曰く。』

中道裕大放課後さいころ倶楽部

ワカコ酒 1 (ゼノンコミックス)

ワカコ酒 1 (ゼノンコミックス)

「登場人物たちがただ○○を普通にしているだけなのに面白い!」という漫画が増えているような気がします(当社比)。
いわゆる「日常系」というジャンルの漫画とは若干異なっており、「日常系」は個性豊かなキャラたちがただただ日常を過ごすところに面白さがあったり、「ダベリ系」*2とも言える「あるある」な共感を吸引力としています。
一方、「ネオ日常系」*3とでも呼ぶべき漫画もありまして、その大将格に存在するのがあずまきよひこよつばと!』だと思っています。
厳密にいうと『よつばと!』は、よつばという「日常のすべてが新しく面白い」というキャラクタを通じたからこそ生まれている「日常の再発見」なのですが、震災以降「日常を面白おかしく描く」ことよりも「面白おかしく描かなくても日常は面白い」という「日常の再評価」を描く漫画に注目が集まっているような気がします。
そういう意味で、上記2作、『ワカコ酒』『放課後さいころ倶楽部』はフジモリ的に「ネオ日常系」に属する作品だと思っていて、『ワカコ酒』はおひとり様OLがただただ居酒屋でお酒とおつまみを愛でるだけの漫画、『放課後さいころ倶楽部』は京都の女子高生たちがただただボードゲームアナログゲーム)を遊ぶだけの漫画なのですが、単純に面白かったです。
どちらの漫画も、読み終わった後に「酒飲みてー」「ボドゲで遊びてー」と思わせる楽しさが詰まっていました。
●三軒茶屋別館 プチ書評 『ワカコ酒』

木下晋也『つくりばなし』

つくりばなし (モーニング KC)

つくりばなし (モーニング KC)

今回のベスト10の中では非常に浮いているかもしれませんが、箸休めの意味も込めて抜擢。
なんというか、「お魚くわえたドラ猫を追いかけて裸足で駆けてく」的なレトロ感あふれた作品です。
架空の町「つくりばな市」を舞台とした、ちょっと変な人たち、ちょっと変な観光名所やゆるキャラ、ちょっと変なご近所スポットをとぼけたタッチで描きます。
派手さはありませんがまさにいぶし銀の面白さ。打順でいうと2番的なポジションの良品です。

松田奈緒子重版出来!

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

重版出来! (1) (ビッグコミックス)

最後の一作は非常に迷いました。悩み悩んだ末にこの作品を抜擢。
どうせ各地で絶賛されて賞レースにも必ず名前が上がるであろう、あまりにもベタ過ぎてフジモリのようなやや捻くれた漫画好きには「直球過ぎてあえて見逃してしまう」漫画なのですが。
出版業界を舞台とした、アツい主人公による「お仕事もの」。一冊の漫画にたくさんの人々の思いが込められているというベタなお話なのですが、あえてフジモリがこの作品を挙げた理由は、「出版業界が斜陽である」ことをしっかりとカミングアウトし、その不況の中でどうやって本を「売っていくか」という地に足ついた現実を飾らず繕わず描いている点に好感を持ったからです。
フジモリも一介の本好きですので垣間見える「業界の裏側」を楽しみながら読んでいる側面はありますが、楽しみながらも「ゆっくりと沈んでいく船」を眺めているような不安と寂寥感を同時に感じます。映画「海の上のピアニスト」のような。
そういう意味では、ベスト10最後の一作に収まるべくしておさまった作品なのかもしれません。
●三軒茶屋別館 プチ書評 『重版出来!』


相変わらず私家版ベスト10はジャンルも作風もバラバラで、改めて見直すと非常にカオスで逆にバランスのとれたラインナップになっています。
それでもあえて傾向を見出すとすれば、「”強烈な虚構”または”日常の再発見”の二極化」なのかな、と感じました。
震災以降ぼんやりと世間を覆っている「虚構のような現実感、虚構を超える現実」に立ち向かうための手法。「さらなる虚構による上書き(=強烈な虚構)」または「現実の境界線の明確化(=日常の再発見)」といった作品がランクインしたのは、フジモリ一個人の単なる趣味嗜好の変化だけが原因ではないと思います。
「虚構のような現実を受け入れたうえで描く虚構、あるいは現実」。そんな一文が頭をよぎりました。
まあ、そういった堅苦しいことは置いておいて、2013年もたくさんの素晴らしいマンガに出会うことができました。感謝感謝の一言です。
私家版ベスト10はその年に1巻が発行された漫画が対象ですが、昨年や一昨年取り上げなかったものの2巻以降で盛り上がっているマンガも多々あります。その年に最も盛り上がっているマンガの私家版ベスト10もやりたいなー、などとも思っています。
来年もまた、素晴らしいマンガたちに出会えますように。そしてまた、当blogを訪れてくださった皆様方にもまた同じように素晴らしい本との出会いが訪れますように。

*1:今回はフジモリのベスト10に取り上げた漫画が「このマン」対象期間外のものが多かったため、「上位3冊、中位2冊、ランク外5冊」でした。

*2:フジモリ造語。『らき☆すた』や平野耕太『以下略』など

*3:フジモリ造語。キャラクタを介する分、レポ漫画とは若干毛色が異なります。