穂積『さよならソルシエ』小学館

さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)

さよならソルシエ 1 (フラワーコミックスアルファ)

画商が--心を揺さぶられて仕方がない作品に出逢った時の感動をなんと呼ぶか
恋だよ
生涯忘れる事のできないたった一度の出逢い
それはまるで運命だ
(P184,5)

処女作『式の前日』が『このマンガがすごい!2013』の少女マンガ部門2位にランクイン、生活感あふれる精密な描写やさらりと含まれる意外性のあるどんでん返しと新人離れした実力が注目された穂積による長編マンガです。
舞台は19世紀パリ。画壇界を席巻する天才画商、テオドルス・ファン・ゴッホを中心とした伝奇ロマンです。
主人公の苗字からわかるとおり、テオドルスは後に天才画家として称されるフィンゼント・ファン・ゴッホの弟。二人の絆と確執、そして彼らを待ち受ける運命を鮮やかに描きます。
『式の前日』で存分に見せた「関係性」を描く手腕は本作でも遺憾なく発揮されています。
弟から兄への畏敬と嫉妬がない交ぜになる視線や、過去の情景を重ねながら「戻れない過去に対する複雑な思い」を要所要所で散りばめるなど、単なる歴史をなぞるだけでない独自の風味を醸しだしています。
破天荒な天才画商が伝統に凝り固まった画壇界をぶっ壊していく様子はまことに痛快でありながらも、物語全体はどこか陰がかかった印象を受けます。
史実に基づくのであればハッピーエンドが望めない物語ではありますが、それでもこの兄弟がどうなっていくか興味尽きることはありません。
完結まで追い続けたい作品だと思います。オススメです。
【ご参考】プチ書評 穂積『式の前日』小学館フラワーコミックス

式の前日 (フラワーコミックス)

式の前日 (フラワーコミックス)