『葬式探偵モズ 1』(吉川景都/怪COMIC)

でも ホントに全部に細かい意味があるんですよ
どんな地域のどういう風習にだって 全部が故人との別れのためにあるんです
遺された家族が式をきちんと整えるのも 安心してあちらへ行けるようにっていう人情ですね
郁さんも だからここまで来たんじゃないんですか?
(本書p30〜31より)

 タイトルどおり、お葬式を題材としたミステリです。
 ミステリは、ときに形式(お約束)を重んじるジャンルだといわれます。さらに、その多くが人の死を扱います。こうした形式性と死という2つの要素は、まさにミステリと葬式との結節点となっています。さらにいえば、お葬式には大抵関係者全員が集まります。そのため、探偵が関係者全員を集めて推理を披露するというお約束もやり易いです。なので、両者はとても相性がいいといえます。
 本書は、昭和50年代中頃が舞台となっています。葬式にまつわる様々な風習が今よりも風化せずに残っていたであろう時代のお話です。”現代では人は流動的で土地に根付かないので、地域固有の風習は薄れつつあります。大多数の人は病院で亡くなってセレモニーホールで葬儀をする。昔ながらのしきたりは消えかけています。(本書p13より)”民俗学の教授である百舌一郎は、そうした消えゆく葬儀の風習を研究している学者です。研究のためにはフィールドワークも辞さない行動派で、行ったことがなく見たことがない地域の葬儀には積極的に参加しようとする変わり者です。
 それだけだと迷惑かつ不謹慎極まりない厄介者ですが(苦笑)、そうはならないのは、ひとつには百舌が葬儀に詳しいがために参列者としての常識というものを弁えているというのがあります。加えて、探偵としてきちんと仕事をしているのも忘れるわけにはいきません。
 葬儀や風習についてのひとつひとつの意味を読み解いた上で、それにそぐわない言動に対して敏感に反応し、そこに矛盾を見出して、真実を明らかにする。葬儀についての薀蓄をシリアスになることなく語りつつ、ミステリとして押さえるべきところはきちんと押さえる。薀蓄ものとしてもミステリとしても読み応えのある作品です。オススメです。