『将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編』(上野裕和/マイナビ将棋BOOKS)

将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編 (マイナビ将棋BOOKS)

将棋・序盤完全ガイド 振り飛車編 (マイナビ将棋BOOKS)

 『最新戦法の話』(勝又清和浅川書房)が刊行されたのは2007年4月ですが、将棋の序盤戦術の変遷はそれから更に進化しながら深化しています。そんな序盤戦術の変遷について、振り飛車居飛車の対抗形に焦点を絞った上で、主に振り飛車側の視点から、従来の序盤から最新形までの歴史的な流れを解説することを目的としているのが本書です。その名の通り、”序盤完全ガイド”です。アマチュア5級から10級のファンでも分かるような内容をということで、そもそも、序盤とは何か?といった説明や、その戦法の狙い考え方・流行した背景といった基本的知識など、ともすれば解説などで疎かにされがちな部分についても取りこぼすことなく触れられています。テレビ将棋はもとより、ネット中継の普及などで将棋に親しみやすい状況が徐々に生まれてきている今だからこそ、こういう本もあるのだということを是非知って欲しいと思い、今回取り上げることにしました。
 本書は3部構成です。目次を紹介しますと、「第1部 序盤の基礎知識(「第1章 序盤初めて講座」「第2章 振り飛車の戦い方、囲い一覧」「第3章 居飛車の闘い方」)」「第2部 歴史を振り返る(「第1章 振り飛車居飛車の歴史」「第2章 棋士の意識の変化」「第3章 外部環境の変化」)」「第3部 現代振り飛車の主流戦法の紹介(「第1章 ゴキゲン中飛車――現代振り飛車のスタンダード)」「第2章 石田流――華麗なるさばきの世界」「第3章 先手中飛車――石田流と対になる先手番の裏エース」「第4章 角交換四間飛車――手損を気にしない型破りの新作戦」)となっています。
 第2部第1章では、昭和50年代ごろから平成20年代までの振り飛車居飛車の歴史が振り返られています。すなわち、四間飛車居飛車急戦から現代までの流れです。当blogでは、以前に将棋とやおいと攻めと受けと題した過去記事にて居飛車振り飛車の歴史を振り返ったことがありますが、本書ではもっと真面目にきちんとした内容で戦型の変遷の歴史がまとめられています。
 第3部では、現在流行している4つの振り飛車戦法についての解説がなされています。『最新戦法の話』との対比という観点からですと、ゴキゲン中飛車対策としての「超速▲3七銀」と呼ばれる居飛車側の指し方と、それに対するゴキゲン側の対策がフォローされているのが嬉しいです。また、『最新〜』が刊行されたころにはほとんど指されていなかった角交換四間飛車について言及されているのも本書の売りとして大きいです。ちなみに、”大工が家の完成図を頭に入れて建築を始めるように、ゴキゲン中飛車側もゴキゲン中飛車理想図を念頭に置いて駒組みを始めます。”(本書p92〜93より)という一連の文章と理想図は、ゴキゲン中飛車がプロのみならずアマにも人気を理由を分かりやすく表現しています。また、居飛車穴熊対向かい飛車の図から互いの角を持ち駒にしてみたp61の仮想図は、角交換振り飛車の思想を端的に説明する図としてとても有難いです。
 なお、本書にはこうした序盤ガイドの他にも、「勝った直後の棋士はなぜ笑わないのか」「VSという研究方式が浸透した理由」といった8つのコラムが収録されており、読み物としても面白いです。
 【将棋速報】 王座戦の三手目で将棋板騒然となってるけど何で? - ゴールデンタイムズ*1など、タイトル戦がニコニコ生放送で中継されるようになってから将棋の序盤数手がネット上で異様な盛り上がりを見せることがありますが、いったいそれは何故なのか?序盤とはいったい何なのか?そんな興味をお持ちの方に是非ともオススメしたい一冊です。
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『最新戦法の話』と『消えた戦法の謎』 - 三軒茶屋 別館

*1:正確には、本局で羽生が採用したのは角交換四間飛車なので、将棋板が騒然となったのは三手目ではなく四手目ですが。