『満ちても欠けても 1』(水谷フーカ/KCデラックス)

満ちても欠けても(1) (KCデラックス Kiss)

満ちても欠けても(1) (KCデラックス Kiss)

 車の中ではいつもラジオを聞いてます。「音だけ」、という奥ゆかしいメディアであるからこそ、運転の邪魔になることなく交通情報や天気予報やニュースといった情報をさらりと耳に届けてくれます。
 そんな「音だけ」というラジオの特徴は、作中においては主にテレビとの比較で、「不完全なメディア」として捉えられることになります。確かに、音だけでなく映像もあるテレビと比べれば、ラジオは不完全なメディアであるといえます。ですが、これまた作中にて述べられていることですが、「だからこそ」でもあります。「音だけ」だからこそ、聞いてる人の中で膨らんでいくものがあります。それが、『満ちても欠けても』です。
 「音だけ」というシンプルなメディアだからこそ誤魔化しが利かなくて、それを象徴するかのように、登場人物みんなラジオが大好きです。
 都内の大きくもなければ小さくもないラジオ局、AM1431ラジオ雛菊。そんなラジオ局から午後11時よりオンエアされる「MNM(ミッドナイトムーン)」。本書は、そんなラジオとラジオ局とラジオ番組に関わる様々な人たちの様々な視点から語られるオムニバスシリーズです。「#1 天羽日向の場合」では入社6年目のMNMパーソナリティでもある人気アナウンサーの視点から。「#2 牛塚理子の場合」ではミキサーという視点から。「#3 古屋みどりの場合」では局内カフェに勤めているハガキ職人の視点から。「#4 花岡奈津の場合」では新人研修を終えて間もない新人アナウンサーの視点から。「#5 中村慧尋の場合」では見習いの視点からみた放送作家の仕事ぶりが。「#6 伊庭徹の場合」ではディレクターの視点から。というように、それぞれのラジオに対するスタンスと、ラジオを通じての様々な人のつながりが描かれています。
 ちなみに、本書は恋愛オムニバスでもありまして、お話ごとにそれぞれのニヤニヤが描かれています。特に天羽と伊庭の関係はニヤニヤできること請け合いです。ラジオ局で働いている人たちは他にもまだまだたくさんいますし、作中にも名前や顔は出てきてるけど、どんな人なのか分からないというキャラが何人かいます。そういう人たちがどのようにラジオが好きで、どんなふうにつながっていくのかとても楽しみです。続刊にも期待です。オススメです。
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