『魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ』(赤月黎/集英社SD文庫)

魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ (スーパーダッシュ文庫)

魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ (スーパーダッシュ文庫)

 魔法の対価は人間の魂一個。本来魔女は自らの魂を少しずつ溜めることで魔法の力を行使しますが、悪しき魔女は他者を殺すことで魂を手に入れて魔法を行使しようとします。主人公の少年・姫崎クオンは魔女に魂を奪われ殺されてしまいますが、魔女狩り探偵・春夏秋冬セツナに魂を半分供給されることによって、かろじて命を永らえています。自らの命と、そして魂とともに奪われた記憶を取り戻すためには、自身を殺した魔女を見つけ出すしかありません。かくして、セツナのペット、もといパートナーとしてのクオンの生活が始まった……本書はそんなお話です。
 魂を供給するという契約によってセツナのパートナーとなったクオン。両者の関係はミステリにおける探偵とワトソンの関係になぞらえることができますが、その関係を魔女という設定から導出されているのが面白いです。ほかにも……。

「この学園ではよく人が死ぬ」
「魔女予備軍を一箇所に集めているんだ……誰がいつ悪魔に魅入られ、魔法の誘惑に負けて魂を売り渡すかわかったもんじゃない。誰もが加害者になり、誰もが被害者になり得る」
(本書p58より)

 こうした設定は、探偵のまわりで人が死にすぎるというありがちなお約束をもまたナチュラルに導出しています。さらに……。

「どうして魔女は悪魔と契約する」
「叶えたい願い、願望があるから?」
(中略)
「そうだ。魔法を知りたければ魔女を知るのが一番だ。我々は魔法を調べるのではない。魔女の秘められた欲望、願望を白日のもとに晒すのだ。それが即ち魔法なのだから」
(本書p113より)

 魔女と魔法についてのこうした関係性の設定は、動機や心理面からの推理による真相の発見を可能にしています。SFミステリや幻想ミステリは、ともすれば何でもありになってしまうが故に推理の前提条件が整わなかったりします。本書についてもそうした面があるのは否めませんが、それでも、主観と客観の往還によって推理を可能なものにしようとしている姿勢は評価に値すると思います。
 このように、魔女(もしくは魔女狩り)についての設定が、ミステリとしてのストーリーが成立するよう様々に考えられている点がとても面白いです。本書はシリーズ第1巻ということで、通常であれば、登場人物の顔見せや設定の説明にどうしても紙数が割かれてしまい、結果、謎解きものとしてはどうしても安直なものに成りがちです。ですが、本書はそうした1巻としてのノルマを着実にこなしつつ、それでいて読み応えのある展開を見せてくれています。ネタバレせずにオススメするのはなかなかに難しいのですが、”『魔女は狩る』『真実は守る』「両方」やらなくっちゃあならないってのが「魔女狩り探偵」のつらいところ”*1なわけですが、そんな覚悟が試されているのが面白いように思います(ナンノコッチャ
 主人公を始めとする中心人物たちについてもいろいろと謎や伏線が張られてますし、それらの回収も含めて続きがとても楽しみです。