『かまいたちの娘は毒舌がキレキレです』(木戸実験/スマッシュ文庫)

かまいたちの娘は毒舌がキレキレです (スマッシュ文庫)

かまいたちの娘は毒舌がキレキレです (スマッシュ文庫)

ラノベってつまんないよね」――学園のアイドル的立場の裏で、暴言あふれるライトノベル批判を繰り返すクラスメイトのかまいたち少女・風海(かざみ)きりか。
秘密結社・鬼郷幇(ききょうほう)の仕事を日々こなす僕、神前静也(こうさき・せいや)はある日、組織の経営する店の前で「妹」撲滅演説をしているきりかを排除せよとの指令を受けるが……!
必ず二度、三度読み返したくなる魔法の演出が施された、妖怪異能力者たちの反ラノベ的ラブ&バトル小説!
※あとがき(解答編)は本編読了後にご覧ください。
http://www.php.co.jp/smash/books/2012/07/post-23.phpより。)

 さて、どうしたものか……。作品として面白かったかといわれれば非常に微妙なのですが(苦笑)、試みとしては大変に面白いと思いますし、埋もれさせておくのは惜しいとも思うのですが、それでいてその試みについてオープンな場で語るとなると興ざめになる恐れもあるので難しいという、何とも困ったお話です。
 「ライトノベルって、つまんないよね」という一文から始まって、外見的にのっぺらぼうな主人公の面相を「ギャルゲーの主人公みたいな顔」と表現したり、ライトノベル=童貞産業といった試論が展開されたり、少し進んだらラノベやアニメで人気の僕と妹の関係性について一席ぶってみたりと。こうした導入は、想定される読者の興味を引くための「掴み」としての狙いがあると同時に、この後の奇抜な展開を効果的なものにするための下準備でもあります。結果、かなりの高確率で作品と読者とのミスマッチが生じることが想定されますが、それはおそらく作者からしてみれば望むところというか知ったこっちゃない、というのが本音でしょう。
 とはいえ、この辺の読者層に届いたら面白そうだなぁというところにまったく届かないのもそれはそれで面白くありません。そこで、ミステリとライトノベルの相性みたいな論点に興味のある方は読んでみるとそれなりに面白いかも知れないよ、と、こそっと呟きながら、以下既読者限定でつらつらと。
(以下、ネタバレにつき既読者限定で。)
 本書の仕掛け自体についてはあとがき(解答編)にて明かされているわけですが、何ゆえ微妙に思ったかといえば、例えれば、2の効果を得る為に読者に対してそれに倍する苦労を強いているようなもの、といった表現が妥当でしょうか。
 恋愛ものにおいて三角関係は定番ともいえる人間関係ですが、その三角形が必ずしも実線で描かれているとは限りません。恋の実戦に積極的に挑むことなく、実線とならなかった想い。そんな想いをいわば実線ではなく点線として描くために用いられた回りくどい手法、それが本書の込み入った構成だといえます。本来であれば当の本人たちに伝えなければ何の意味もないはずの気持ちを、物語にまとめて本人たち以外の読者に伝える――なるほど、確かに屈折しています。
 また、時系列シャッフルを物語の読後感を操作するために用いられているのも面白いです。最終的に「死」というバッドエンドが約束されている人生という物語ですが、どこでどのように切り取るのかによってハッピーエンドになったりバッドエンドになったりします。類似の作品として『名人』(川端康成新潮文庫)などを挙げることもできると思いますが、やはり非常に興味深い試みだと思います。
 ちなみに、あとがき(解答編)にて、”叙述トリックと時系列シャッフルと作中作が有機的に組み合わされている既存の作品はないように思いました”(本書p317より)とあるのですが、その正否については、私のような無学な者には何とも判じかねます。識者の判断を仰ぎたいので、何かご存知の方がおられましたら是非ともご教示くださいませませ。