豊田徹也『珈琲時間』講談社

珈琲時間 (アフタヌーンKC)

珈琲時間 (アフタヌーンKC)

よいコミュニケーションは、ブラック・コーヒーと同じくらい刺激的。 その後は、なかなか眠れないもの。
(アン・モロー・リンドバーグ

 豊田徹也による17編の短編集です。
 タイトルに『珈琲』とあるとおり、全編にわたって「コーヒー」が登場します。といっても、コーヒーをテーマやモチーフにした短編ではなく、各話のちょっとしたアクセントに使われる程度です。(一部除く)
 喫茶店で隣同士の席になったチェロ奏者と謎の外国人のお話、叔母が珈琲豆を焙煎する様子を姪っ子が眺めるお話、銃口を互いに向けながら珈琲を飲むお話、などなど。
 淡々とした筆致で日常を切り取りながらも、各コマが見せる人物の感情の機微がすばらしく、作者の力量をひしひしと感じます。
 出会いという「偶然」と別れという「必然」を12ページに見事に落とし込み、会話や表情から人物たちが歩んできた過去を読者に想像させることができる、まさに「これぞ短編」とでもいうべき作品たち。
 本作を含め3冊しか作品がない寡作な漫画家です。本作『珈琲時間』はコーヒーを一つの共通項としていますが、同作者のごった煮短編集『ゴーグル』ではまたジャンルも内容もばらばらなだけに『珈琲時間』とは異なる良さがあります。
 まさに上質なコーヒーを飲んだかのような充実したひと時を味わえる素敵な短編集。おすすめです。

ゴーグル (KCデラックス アフタヌーン)

ゴーグル (KCデラックス アフタヌーン)