良質な「ミリタリー法螺マンガ」 速水螺旋人『大砲とスタンプ』
- 作者: 速水螺旋人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/12/22
- メディア: コミック
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銃の代わりにペンを持て!
戦争の裏方・兵站(へいたん)軍所属の、熱血官僚主義っ娘マルチナ・M・マヤコフスカヤ。
彼女の主な任務は物資の輸送や補給。
前線兵士に馬鹿にされようが、振り回されようが、私は信念貫きます!
「私たちは書類で戦争してるんです!」
(モーニング公式サイトより)
帯に「ミリタリー法螺マンガ」とあるとおり、国から兵器から戦況から、まるっと一から「世界」を構築しています。「神は細部に宿る」といいますが、まさに細部までしっかり考えられているのだろうな、と思わせるみっちりした設定。
例えば、作中の1話のみに登場する戦列列車はこんな感じ。
あたかも大量の鰹節を惜しみなく使って一杯の出汁をとるかのように、しっかりと考えられた「世界」が作品の土壌にあります。
ジャンルは異なるかもしれませんが、士郎正宗『攻殻機動隊』をはじめて読んだようなくらくらした衝撃をこの作品から受けました。
そして、この作品がさらに変わっているのは、『大砲とスタンプ』というタイトルのとおり、「スタンプ」、つまり輸送や移動などの「支援業務」を担当とする「兵站」を主軸としたお話であるということです。
兵站
兵站(へいたん 英語: Military Logistics)とは一般に戦争において作戦を行う部隊の移動と支援を計画し、また実施する活動を指す用語であり、例えば兵站には物資の配給や整備、兵員の展開や衛生、施設の構築や維持などが含まれる。
(wikipediaより)
『大砲とスタンプ』の主人公は、大公国兵站軍に配属されたマルチナ・M・マヤコフスカヤ(メガネっ娘)。横領だの物資不足だのマスコミの接待だのと「直接」戦争に関与しないものの、銃弾の雨をくぐり書類の山を崩しながら仕事に邁進します。架空の戦争ながらも、「支援する部隊の重要さ」が身にしみてわかります。
基本的に1話完結のエピソードの積み重ねですが、ばんばん人は死にますし(戦争ですから)、ハッピーエンドとはいいがたい結末のお話も多々あります(戦争ですから)。
それでも、絵柄のコミカルさもあいまって読後感は決して悪くありません。このへんのバランスはお見事だと思います。
別記事「私家版2011年「このマンガがすごい!」ベスト10+3」でもベスト10にランクインさせましたが、2011年に刊行されたマンガの中ではフジモリのなかでは上位に位置する作品です。ミリタリーマンガという特性上、万人にはオススメできませんが、読んで損はない一冊だと思います。
【作者サイト】空とぶ速水螺旋人