絶望した!カフカの「絶望名人」っぷりに絶望した!

絶望名人カフカの人生論

絶望名人カフカの人生論

『絶望名人カフカの人生論』と気になるタイトルで書店で思わず衝動買いしてしまいましたが、これがまたことのほか良かったのでご紹介を。

誰よりも落ち込み、
誰よりも弱音をはき、
誰よりも前に進もうとしなかった人間の言葉
(帯より)

 『変身』『審判』などで有名な小説家、フランツ・カフカ
 漫画スキーの方々であれば久米田康治さよなら絶望先生』の登場人物、「風浦可符香(フウラ・カフカ)」を思い浮かべるかと思いますが、風浦可符香が超ポジティブキャラなのに対し、本家本元のカフカは実にネガティブ。

将来に向かって歩くことは、ぼくにはできません。
将来に向かってつまずくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。
(P24)

ぼくは彼女なしでは生きることはできない。
……しかしぼくは……
彼女とともに生きることもできないだろう。
(P146)

 まさに、「思わず笑ってしまう」ネガティブさ。こーゆーの先生とても好きです。
 本書、『絶望名人カフカの人生論』はそんなカフカが日記や手紙に書き残したネガティブな名言をこれでもかこれでもかと集めています。
 ちなみに、各章タイトルには「将来に絶望した!」「世の中に絶望した!」と、どーみても『絶望先生』を意識したフレーズ。むしろタイアップしちゃえば良いのに。
 本家本元のカフカは、超ポジティブな『さよなら絶望先生』の風浦可符香とは真逆に超ネガティブです。しかしそれはまた、『さよなら絶望先生』の作風と同じく、突き抜けたネガティブさを「笑いに昇華させる」力を持っています。まさに絶望名人。(もっとも、カフカ当人は本気で書いていたのでしょうが)
 『さよなら絶望先生』でも「パンドラの箱の下に絶望という希望が眠っていた」*1と言っていましたが、まさにカフカの名言も「希望が生まれる」絶望。

ぼくは、ぼくの時代のネガティブな面をもくもくと掘り起こしてきた。
現代は、ぼくに非常に近い。だから、ぼくは時代を代表する権利を持っている。
ぼくは現代のネガティブな面を堀りあて、それを身につけてしまったのである。
ポジティブなものは、ほんのわずかでさえ身につけなかった。
ネガティブなものも、ポジティブと紙一重の、底の浅いものは身につけなかった。
どんな宗教によっても救われることはなかった。
ぼくは終末である。それとも始まりであろうか。
(P14)

「絶望名人」カフカの絶望っぷりを楽しみながら、『さよなら絶望先生』との親和性を満喫する。
さよなら絶望先生』好きなら読んで損はない一冊です。
【ご参考】
三軒茶屋別館 プチ書評 『審判』(フランツ・カフカ/岩波文庫)
『さよなら絶望先生』とカフカの『日記』についての推論

さよなら絶望先生(1) (講談社コミックス)

さよなら絶望先生(1) (講談社コミックス)

*1:第278話「似勢物語」より