"荒木飛呂彦+上遠野浩平"という奇妙「じゃない」方程式 『恥知らずのパープルヘイズ』
- 作者: 上遠野浩平,荒木飛呂彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2011/09/16
- メディア: 単行本
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●http://j-books.shueisha.co.jp/vsjojo/
トップバッターは、『ブギーポップは笑わない』の上遠野浩平です。
上遠野浩平は「業界一のジョジョ好き」と呼ばれるほど「ジョジョ」のファン。西尾維新*1が荒木飛呂彦と対談したときに
荒木 西尾さんは、小説家だとどんな人がお好きなんですか。
西尾 ここではやはり上遠野浩平先生の名前をあげたいですね。上遠野先生は『ジョジョ』好きで有名なんです。小説家では一番の『ジョジョ』好きとして著名。
西尾氏担当編集者 先だって上遠野先生に、西尾先生が荒木先生のところに行くと伝えたら、数秒間の沈黙があって、素っ気なく「あ、そうですか」と(笑)。
(宝島社『西尾維新クロニクル』P89)
と言っていたぐらい。
彼の作品『ブギーポップは笑わない』では特殊能力を持ったり持たなかったりする人々が日常に潜む「悪」と戦いますし、『ビートのディシプリン』ではまさに能力者同士の戦いを描いています。
そんな上遠野浩平が「ジョジョ」を書いたらどうなるか。
これがまた、思った以上に「ジョジョ」であり、「上遠野浩平」していました。
舞台は、第五部の「その後」。
主人公は、原作にて途中退場したフーゴです。
組織の「裏切り者」となっていくブチャラティたちと袂を割かったが故に「裏切り者」となったフーゴ。
「恥知らずのパープルヘイズ」と呼ばれている「裏切り者」フーゴに対し、かつての仲間であるギャングのボスとなったジョルノから与えられた指令は、ディアボロの負の遺産である「麻薬チーム」の暗殺であった・・・というお話です。
「その後」のフーゴを書いた小説としては、大塚ギチ/宮昌太朗『ゴールデンハート/ゴールデンリング』もありますが、この作品『恥知らずのパープルヘイズ」は見事なまでに「ジョジョ」の世界を受け継いでいます。
チーム戦
主人公フーゴが立ち向かうのはディアボロの負の遺産である「麻薬チーム」。ジョルノが憎み、ブチャラティの人生を大きく変えた「麻薬」を司る敵役もまた、「チーム」にて行動します。
第五部では「チーム戦」が大きな特徴でしたが、この小説もまた、フーゴを中心とした「チーム」と麻薬チームの「チーム戦」です。彼らが各の能力を活かしあい、どう戦っていくのか、というところが大きな見所です。
フーゴたちの心理描写
小説という特色を大きく活かし、『恥知らずのパープルヘイズ』ではフーゴの心理描写が多く描かれます。ブチャラティとの出会い、ナランチャとのエピソードなど原作で描かれたエピソードの回想。フーゴがどう思ったかといういわゆる「原作の補填」という二次創作的な楽しみ方もできます。
しかしながらフーゴの心理描写は「ジョジョ」を上遠野浩平が消化・昇華し自信の言葉として紡いでいます。作者の「ジョジョ愛」が端々に感じられます。
継承
ジョジョが好きな人ならニヤリとする場面が多々織り込まれているところも『恥知らずのパープルヘイズ』の特徴。
意外なキャラクタの再登場や意外なキャラクタの接点。
そして原作で出てきそうな場面がふんだんに盛り込まれており、頭の中で「ゴゴゴゴゴ」という擬音が浮かんできます。このあたりは「ジョジョ好き」を公言する上遠野浩平の面目躍如、といった感じです。
「上遠野浩平」が描く「ジョジョ」
「ジョジョ」でありながら「上遠野浩平作品」を読んでいる人なら「あー、上遠野浩平らしいなぁ」という要素がふんだんに詰め込まれています。
たとえば、冒頭の一文。
これは、一歩を踏み出すことができない者たちの物語である。(P7)
ブギーポップシリーズでは、「何かが欠けている」登場人物たちが「何か」を埋めようと渇望し、もがき、時には暴走し、時には力つきていく姿をときにシニカルに、時にウェットに描いている物語です。
フーゴもまた、「一歩を踏み出すことができない者」として自らに鬱屈した「何か」を抱えています。彼の苦悩と解放がこの物語の軸となっているのです。
そして、スタンドバトルもまた、上遠野浩平らしいです。
「小説」という媒体を活かし、ビジュアルではなく「能力」を重視した、そして漫画という媒体では表現が難しい「精神」に訴えるスタンドが多々登場します。
そしてまた、最後の場面では「世界の敵」を思わせる一コマが。
思わず、「ニュルンベルクのマイスタージンガー」を口笛吹いてしまいました。
同じ「ジョジョ小説」である乙一の『The book』は「乙一なのにジョジョ。ジョジョなのに乙一。」な作品でしたが、この『恥知らずのパープルヘイズ』もまた、「ジョジョなのに上遠野浩平」な作品。
作者の「ジョジョ愛」あふれ、そして上遠野浩平なりの「ジョジョワールドの消化・解釈」が描かれます。そして、「上遠野浩平作品」に通底するテーマやモチーフもくみ取れる、まさに「荒木飛呂彦+上遠野浩平」による純粋な足し算。
「ジョジョ」ファンにも「上遠野浩平」ファンにも楽しめますが、両方好きならさらにさらに満足できる一冊です。
「vsJOJO」のトップバッターとして申し分ない「豪直球のストレート」といった感想を抱いた本作。次に控える西尾維新がどのように「ジョジョ」を料理するか、これまた期待が高まります。
●乙一『The Book―jojo’s bizarre adventure 4th another day』集英社 - 三軒茶屋 別館