『青い星まで飛んでいけ』(小川一水/ハヤカワ文庫)

青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)

青い星まで飛んでいけ (ハヤカワ文庫JA)

 SF(一部ファンタジー)短編集です。

都市彗星のサエ

 100ページに満たない短編ですが、都市彗星という特殊な環境とそこに住む人々の暮らしと価値観といった物語背景や極狭の居住空間しかない宇宙ポッドによる宇宙旅行(?)の現実的な困難などがしっかりと押さえられています。その上で、そうした閉塞的な状況に不満を持つ少年と彼に惹かれる少女の物語が描かれています。上質なガール・ミーツ・ボーイSFです。

グラスハートが割れないように

 理性と妄信、あるいは科学的思考と似非科学的思考の対立。と、ひと言でまとめてしまうと考えるまでもない問題だと思いますが、これに恋愛が絡むと確かに厄介です。それでも無害なものであれば我慢もできますが、現に害を及ぼしているのであれば何とかしなくてはなりません。極めて日常的なレベルで科学的思考の意義が試される佳品です。

静寂に満ちていく潮

 電子的人工義肢の発達によって肉体を捨てた人類。肌と肌を合わせるセックスではなく電気信号の交換による交感によって交歓を得ることが当たり前の時代。そして異星人との出会い。となれば予想されるオチはひとつでしょう(笑)。期待を裏切らないことは大事ですが、確かにもうひとつ捻りなり深みが欲しかったのは否めません。

占職術師の希望

 その人の天職が何かを見抜くことができる能力を活かし占職術師として生計を立てている主人公。就職活動が学生にとって一大事で、そうまでしても自らが希望する職に就くのは難しくて、そもそも就職すること自体が困難な現代では夢のような能力だといえます。あやかりたいです(笑)。とはいえ自分自身には特筆すべき能力があるわけでもなく、そんな万能ハローワーカーが活躍する軽妙なハードボイルドです。

守るべき肌

 3D映画で話題となった『アバター』を連想したのですが、解説によれば2004年に発表された作品とのこと。それだけ本作の構造がSF的には平凡なものになっているということだと思います。だからこそ、ディテールやキャラクターの心情や機微が興味の対象となります。本作の結末を主客転倒と捉えるか当然のことと評するかでSF読みとしてのスタンスが試されるように思います。

青い星まで飛んでいけ

 地球外知性を探して接触せよ、という使命を与えられ、人類が滅びたあとも地球外知性とのコンタクトを続ける自意識を有する宇宙船エクス。「……こっの世間知らずで傲岸不遜でハタ迷惑なチビクソ肉ブタ人類どもめが」と自らを生み出した人類をうらみつつ、他の知性にコンタクトしては邪険にされ、オーバーロードからは横槍を入れられつつもめげずにコンタクトを続ける彼の姿はとても健気で”萌え”ます(笑)。解説の坂村健が”エクスたん”と呼び「はじめてのおつかい、はやぶさたん!」を引き合いに出すのも分かります。本書の白眉です。