ライトノベルとライトリーディングスについて。
温故知新の宝庫である青空文庫から小ネタをひとつ。
青空文庫では2011年に入ってから平林初之輔というミステリ作家・評論家の著作が立て続けにうpされてまして、一ミステリ読みとして大変有難く思っているのですが*1、その中のひとつ、「『心理試験』を読む」で以下のような記述を見つけたのでご紹介。
探偵小説の類は、西洋でもいわゆる「軽い読物(ライトリーディングス)」として、文学上には大した地位を占めていないのが普通である。
(図書カード:『心理試験』を読むより)
ライトノベルという言葉が一般的なものになりつつある昨今、ちょっと読み口の軽い小説(個人差のある相対的な評価ですが)があると「ライトノベルみたい」と考えもなしにいわれがちで、そうするとライトノベル読みから「あの作品をライトノベルと呼ぶのは違うだろ」と迷惑がられるというのが巷で見られたり見られなかったりします。
そもそも、ライトノベルという言葉自体が定義の難しい曖昧なものです。確かに読み口の軽さも特徴のひとつとして挙げられることもありますし、ライトノベルの「ライト」という言葉にはそうした軽さ・軽やかさを表わす意味が込められていることも確かでしょう。ですが、実際には内容的にも文章的にも全然軽くない作品もいっぱいあります。そうした事情を無視して読み口の軽い小説=ライトノベルと一括りにしてしまうのはやはり乱暴に過ぎるでしょう。なので、そんなときには「軽い読物(ライトリーディングス)」という言葉を端的に用いてみればよいと思ったり。
なお、上記著作「『心理試験』を読む」は今から80年以上前(1925年)に発表された文章なのですが、そんな昔にライトリーディングスという言葉があったことに個人的には驚きです。とはいえ、今ではあんまりお目にかかる言葉ではありませんし、いざ使うとなるとそこはかとない違和感を覚えるのも確かなのですが(苦笑)、そもそも小説の読み口を「軽い」と評してあげつらうこと自体に居心地の悪さを感じるので致し方ないことかとも思ったり。
ちなみに、ライトノベルという言葉の由来や定義や歴史に興味のある方は『ライトノベル「超」入門』(新城カズマ/ソフトバンク新書)や『ライトノベル☆めった斬り!』(大森望・三村美衣/大田出版)なんかを読んでみればいいと思うよ。
【関連】ライトノベルの定義を法律の学説っぽくまとめてみる - 三軒茶屋 別館
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*1:青空文庫に探偵小説についての評論・エッセイがうpされるごとに過去記事青空文庫で読む探偵小説論を地味にアップデートし続けていますが、2011年に入ってから平林初之輔評論リストとなりつつあります(笑)。