モーニングで南Q太による将棋漫画『ひらけ駒!』の連載が始まったよ!

 モーニング6号(2011年1月22日号)から南Q太による将棋漫画『ひらけ駒!』の連載が始まりました。
南Q太モーニングに初登場、将棋に夢中な母子描く新連載 - コミックナタリー
 単行本の1巻が出たらまた改めて記事を書こうと思いますが、とりあえず一将棋ファンとして連載開始を祝いつつ思い付きをつらつらと。

 実は作者の南Q太さんは私の教室の生徒さん。まさか将棋のマンガを書いてくれるとは(T_T)
 将棋のマンガっていうと、主人公がいて、その主人公がプロ目指して奨励会入って、的なストーリーが多いと思うんですけど、そういうストーリーではありません。今までにない斬新な将棋マンガとなっていますので、是非皆さんもモーニングを買って下さい!(>_<)
http://ajiajiamano.at.webry.info/201101/article_4.htmlより

 確かに、1ページ目の「先手(むすこ)、将棋に夢中。後手(はは)、さらに将棋に無我夢中。」というキャッチからも察せられるように、棋士が将棋を指しているときの殺気にも似た熱気が今のところ感じられない独特な将棋漫画になりそうな気配がします。
 現在『ひらけ駒!』の他に漫画雑誌で連載中の将棋漫画は、柴田ヨクサルハチワンダイバー』(週刊ヤングジャンプ*1羽海野チカ3月のライオン』(ヤングアニマル*2、門脇由『雪と花』(ビッグコミックオリジナル増刊号)*3青木幸子『王狩』(イブニング)*4の4作ですが、それらの主人公・登場人物は真剣師だったりプロ棋士だったり奨励会員だったりしますが、いずれにしても将棋が強くなることを目指している”棋士”です。ところが、本作の場合には、第1話を読んだだけなので不明な点は多々ありますが(苦笑)、どうやら主人公は将棋にはまった息子を持つ母親のようです。これは将棋漫画として、確かに珍しいストーリーになりそうな予感がします。
 将棋漫画史を遡りますと、能條純一月下の棋士』や、原作・かとりまさる/漫画・安藤慈朗しおんの王*5といった作品を挙げることができますが、これらの作品に共通している点として、主人公と両親との関係が希薄であることを挙げることができます。『月下の棋士』の主人公・氷室将介と『雪と花』の主人公・ユキは幼少期から祖父に育てられ、『しおんの王』の主人公・しおんと『3月のライオン』の主人公・桐山零は殺人/事故により両親を失いプロ棋士の家で育てられます。また、『王狩』の主人公・久世杏は2歳の頃に父親を事故で失い、母親と離れて師の下で奨励会員としてプロ棋士を目指しています。『ハチワンダイバー』の場合は、主人公・菅田健太郎と両親の関係はまったく描かれていないので不明ですが、準主人公というべきヒロイン・中静そよは幼少期に両親を失い、そのことが彼女が将棋を指す動機となっています*6
 将棋漫画の主人公の家族関係が何ゆえ揃いも揃って不幸な背景を背負わされているのかは非常に興味のある論点で、それについてはいずれ別記事にて語ることにしたいと思っています。それはそれとして、本作の場合、第1話の時点では将棋を指している息子と母親しか登場していないので、「あれ?父親は?」という点で少々嫌な予感がするのですが、それでも、将棋を指す息子とその母親という、将棋を通じての「親子の関係」に焦点が当てられることになりそうなのがとても興味深いです。*7
 また、柴田ヨクサルハチワン』に続く将棋漫画が、羽海野チカ青木幸子南Q太と女性漫画家が続いているのも面白いです*8。将棋のどこかに女性漫画家を引き付ける何かがあるということなのでしょうね……。
 将棋漫画がこれだけの活気を見せ始めている理由として、渡辺明竜王が著書『頭脳勝負――将棋の世界』(ちくま新書)で語った次のような言葉が背景にあると思われます。

スポーツを観るように将棋も
 プロの将棋はファンに観てもらってはじめて価値を持ちます。その点は他のプロスポーツと全く同じです。
 しかし、一般的なイメージとして、将棋を楽しむのも何か難しそうに思われてるのではないでしょうか。でも、そんなことはありません。将棋を指すのは弱くとも、「観て楽しむ」ことは十分できます。
 例えばプロ野球を見る時。「今のは振っちゃダメなんだよー」とか「それくらい捕れよ!」。サッカーを見る時。「そこじゃないよ! 今、右サイトが空いてたじゃんか!」「それくらいしっかり決めろよ!」。自分ではできないのはわかっていてもこのようなことを言いながら見ますよね。同じことを将棋でもやってもらいたいのです。
 「それくらい捕れよ!」と言いはしますが、実際に自分でやれと言われたら絶対にできません。「しっかり決めろよ!」も同じで自分では決められません。将棋もそんなふうに無責任に楽しんで欲しい。
『頭脳勝負』p98より

 こうした問題意識を受けて、梅田望夫がこれまでの”指す将棋ファン”のみが重んじられてきた風潮と一線を画す”観る将棋ファン”というスタンスを前面に押し出した著書『シリコンバレーから将棋を観る』『どうして羽生さんだけが、そんなに将棋が強いんですか?』(ともに中央公論新社)といった書籍を刊行するなどして”観る将棋ファン”の観点から将棋や棋士についての魅力、それを語ることの面白さをアピールしています。
 このような”指す将棋ファン”のみが将棋を楽しめるといった価値観からの脱却、「将棋を無責任に楽しんでもいい」というトッププロからのアピールが、こうした将棋漫画の活況の根底にあると考えられます。本作は、そんな”将棋を観る”母親が主人公ということで、これまでの将棋漫画では描かれることのなかった将棋の魅力を引き出してくれそうな期待が持てます。今後の展開が楽しみです。
【関連】
あけましておめでとうございます。 | 南Q太オフィシャルブログ「遠くへいきたい」Powered by Ameba
「モーニング」誌の将棋漫画『ひらけ駒!』の第1話に田丸がなぜか登場: 田丸昇公式ブログ と金 横歩き(第1話に登場する棋士・田丸昇八段の公式ブログです。)
『頭脳勝負―将棋の世界』(渡辺明/ちくま新書) - 三軒茶屋 別館
『どうして羽生さんだけが、そんなに強いんですか?』を『3月のライオン』読者向けにオススメしてみる。 - 三軒茶屋 別館

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

頭脳勝負―将棋の世界 (ちくま新書)

*1:【参考】ハチワン=081=オッパイと読んでしまう人のための『ハチワンダイバー 1巻』将棋講座 - 三軒茶屋 別館

*2:【参考】『3月のライオン 1巻』将棋講座 - 三軒茶屋 別館

*3:【参考】第64回新人コミック大賞入選作『雪と花』盤面チェック - 三軒茶屋 別館

*4:【参考】『王狩1巻』将棋講座 - 三軒茶屋 別館

*5:【参考】そろそろ『しおんの王』について語っておくか - 三軒茶屋 別館

*6:この辺りについてはストーリー的に様々な事情があります。そのためネタバレ回避のため詳細は割愛しますのであしからず。

*7:ちなみに、将棋を指す子供と親の関係、という論点につきましては、児童文学ですが、『ライバル おれたちの真剣勝負』(はまなかあき角川学芸出版)という作品がオススメですので興味のある方は是非。【参考】『ライバル おれたちの真剣勝負』(はまなかあき/角川学芸出版) - 三軒茶屋 別館

*8:門脇由の性別は不知なのであしからず。