『セドナ、鎮まりてあれかし』(泉和良/ハヤカワ文庫)

セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)

セドナ、鎮まりてあれかし (ハヤカワ文庫JA)

セドナ (90377 Sedna) は、将来的に準惑星冥王星型天体)に分類される可能性がある太陽系外縁天体の一つ。2003年11月14日にカリフォルニア工科大学のマイケル・ブラウン、ジェミニ天文台のチャドウィック・トルヒージョ、イェール大学のデイヴィッド・ラビノウィッツによって発見された。セドナは、太陽系の直径100km以上の知られている天体の中では太陽から最も遠くの軌道を回っている(ただし、2008年現在はエリスの方が遠くに位置している)。
セドナ (小惑星) - Wikipedia

 菅直人首相は14日、太平洋戦争の激戦地・硫黄島(東京都小笠原村)を訪れ、戦死者の遺骨収容作業を視察した。政府の特命チームが作業を始めた10月以降、収容された遺骨は298柱に上り、米軍が戦闘直後に集団埋葬したとみられる地点を重点的に掘り起こした結果、過去10年間の年間平均64柱を大きく上回っている。政府は来年度予算概算要求に硫黄島の遺骨収容経費15・6億円を盛り込んでおり、硫黄島を皮切りに国内外に残された遺骨約114万柱の収容に取り組む方針。
菅首相:硫黄島視察 「家族に遺骨、国の責務」 特命チーム、10月以降298柱収容 - 毎日jp(毎日新聞)

 先の大戦の激戦地だった太陽系辺境の惑星セドナでは今も数多くの遺骨が眠る。大戦の任務中に怪我をして脳に障害を負ったゴロこと尾野碁呂軍曹は、温和な老人イーイーや旧型アンドロイドのクイミクといっしょにセドナの眠る遺骨を収集する任務を開始する。それは鎮魂の祈りの日々だった……というお話です。
 戦時ではなく戦後に焦点が絞られている本書は、「戦争を知らない世代」が描いたど真ん中の戦争SF作品だといえるでしょう。もっとも、SFとはいいましても、ナノマシンというある意味マジックワードともいえるガジェットによって大方の現象が説明されてしまっているために、おとぎ話めいた空気すら漂っています。ですが、そんなSF的がジェットのおとぎ話的な使われ方が、戦争という生々しい過去の出来事と、現在の牧歌的な牧歌的でありながら静謐な雰囲気とをつなぐ架け橋になっているといえます。本書はSFでないとはいいませんが、コチコチのSFを期待することなく構えずに読むのが吉でしょう。
 本書のフック(読者を引き付けるための仕掛け)として、語り手の独特な目線があります。主人公は間違いなくゴロなのですが、その一方で、語り手の視点はゴロから微妙にずれた場所にあります。そんな語り手の視点は、自分自身の状態を受け入れることができずにどこか他人事として捉えてしまう障害者の精神状態を思わせる描写で非常に興味をそそられます。そんな語り手の正体は、分かってしまうと正直少々拍子抜けだったのは否めませんが、状況説明に不向きな人物を主人公とするための手法として成功していると思います。
 生者と別れ死者と出会う優しくも悲しい鎮魂のお話ですが、その中に”私”と”公”の関係について問い掛ける確固たる芯が通っています。派手さには欠けますし、結末も少々都合がよすぎる気がして、そこは好みではありません。ですが、しんみり読める一冊です。