ハチワンで考える賭け将棋と大会の違い

ハチワンダイバー 16 (ヤングジャンプコミックス)

ハチワンダイバー 16 (ヤングジャンプコミックス)

「いくらで?」
「俺はプロ棋士だから賭けはやらん」
(本書p120より)

「賭けはしなくていい!!! 賭けじゃないっ とにかくここにいる師匠に勝ったら…」
「賞金153万!!!! 早い者勝ち!!!」
(本書p122より)

賭け将棋じゃない理由について

 『ハチワンダイバー』16巻の鈴木八段”3分切れ負け”3面指しが賭け将棋に当たらない理由をまず。
 本作でこれまでに行なわれている賭け将棋、すなわち真剣は、例えば真剣師AとBが互いに1万円出し合って将棋をして勝った方が2万円持っていく。というものです。つまり、互いに金銭という財物を賭けた将棋が行なわれていますので、刑法第185条に該当する賭け将棋ということになります*1
 それに対して、本書で鈴木八段が行なっている”3分切れ負け”3面指しでは、鈴木八段も地下の真剣師たちも金銭を一円たりとも賭けていません。なので賭け将棋ではありません。以上です。

賭け将棋と大会の違い

 ……とはいえ、これで真剣師たちが参加料とかでいくらかのお金を払ったりしていると法律的にたちまち厄介な問題となります。賭博と賞金、賭けと掛けの境い目はときに曖昧です。以下は仮定の問題として考えていただきたいのですが、本書の形式であれば、仮に真剣師たちが参加料を払ったとしても賭け将棋には該当しないものと思われます。それは、本件事案の場合には賞金大会としての形式が整っていると考えられるからです。

 ただし一つ注意しなければならないのは、“その「賞金」を、「大会運営者」が出してはならない”ということだ。
 もし「大会運営者」が賞金を支払うとすると、「大会運営者」が会場を“開帳”し、「選手」(博徒)からカネを巻き上げ、勝った者にそれを還元する、という 「賭博」 が成立してしまうからである。もちろんこれは違法である。
 なので各種大会は、「大会運営者」と「賞金を支払う者」 を別にしていて、「賞金を支払う者」がいわゆる“スポンサー”ということになる。これなら「賭博」が成立しないので合法というわけなのだ。「サントリーオープン ゴルフトーナメント」や、「キリンカップ」(サッカー)など、様々な“冠大会”があるが、これらは全てこういった事情が絡んでいるのである。
http://www9.plala.or.jp/nakanoryuzo/syuukan/52.htmlより

 つまり、本件の場合ですと、鈴木八段が大会を運営し参加者を募り*2真剣師たちがそれに参加して、菅田がスポンサーとなって賞金153万円を用意する(まあ、この辺りの順序は曖昧ですが・笑)。いわば菅田杯とでもいうべき大会がここに成立しているということになります。なので、賭場ではなく大会会場ということになります。
 お話の中のこととはいえ、プロ棋士に賭け将棋を指させないように、本書は実に気を付けられているということがいえると思います。



 以上ですが、賭博はときに「被害者なき犯罪(被害者なき犯罪 - Wikipedia)」と呼ばれることもあるように、単純に良い悪いといったアンテナが働きにくいことがあって考えるのが難しいです。何か異論反論などございましたら遠慮なくご指摘いただければ幸いです(ペコリ)。
【関連】オッパイ将棋は賭博罪に該当する? - 三軒茶屋 別館

*1:ただ、刑法185条の罰則は罰金50万円なので賭けによって得られる額によっては、特にハチワンのようにとんでもない賭けが行なわれる場合には、抑止力にならないかもしれませんね。

*2:運営者=場所提供者は鬼将会、という考え方もあるかもしれません。ただ、鈴木八段が舞台を設営して「誰か指そうぜ!!!!」(本書p120)っていってますから、鈴木八段を運営者と考えるのが妥当だと思います。