新城カズマ『マルジナリアの妙薬』早川書房

マルジナリアの妙薬

マルジナリアの妙薬

15x24』、『サマー/タイム/トラベラー』などで有名なSF作家、新城カズマのSF短編集です。
もともと、毎日新聞の月刊フリーペーパー『まんたんブロード』に連載されていましたが、このたび早川書房から発行されることとなりました。
短編、というよりショートショートなのですが、その主題は「物語そのもの」。12話のショートショートは、読者に「物語とは何か?」を考えさせる起爆剤となります。
ショートショートなので内容についてふれられないのが非常にもどかいしいのですが(笑)、例えば『物語工学論』、あるいは『われら銀河をググるべきや』などで新城カズマが述べていた「物語とは何か」「現代の延長線上にある”未来”とはどのようなものか」についてそのアイデアを「小説」という形に落とし込んだ、という見方もできると思います。
また、いくつかの話の中ではこれまでの新城カズマ作品との「つながり」*1が散りばめられ、そういった意味でも楽しめました。
ちなみに、タイトルにある「マルジナリア」とは、「余白(欄外)の書き込み、傍注」という意味です。
しかしながら、単に字義どおりの意味に受け取るよりも、当然著者の新城カズマはポーと澁澤龍彦の「マルジナリア」を意識していると思います。

マルジナリアとは何か ?
澁澤龍彦の「マルジナリア」から引用しよう。
『 マルジナリアとは、書物の欄外の書きこみ、あるいは傍注のことである。エドガー・ポーは本を買うとき、なるべく余白が大きくあけてあるような本を買って、読みながら思いついたことを、そこに書きこむのを楽しみにしていたという。こうして出来たのがポーの「マルジナリア」であった。』
続けて、
『 私の「マルジナリア」も、いくらかポーのそれに似ていて、必ずしも欄外に書きこんであるというわけではないが、これまでに私が読みあさってきた本のなかから、その題材を得ているものが多い。結果として、読書ノートのようなかたちのものになってしまった。』
blog「マルジナリア」の記事「澁澤龍彦著・マルジナリア」より)

「物語」そして「未来」について新城カズマが思い止めた「マルジナリア」を、「ショートショート」として「物語にすること」。
つまり、「思想の断片を、ショートショートにしてしまえ!」という「行為そのもの」が、タイトルにあるマルジナリアの「妙薬」なのではないか、と勝手ながら思っています。
そういう意味では、『物語工学論』『われら銀河をググるべきや』のサブテキストとしても有用かもしれません。
ショートショート集にしてはお値段が少々はるのがネックですが、少なくともフジモリは値段相応以上に楽しめ、他の新城カズマの本と同じようにこの本から空想を広げられました。
【ご参考】
新城カズマ『物語工学論』角川学芸出版 - 三軒茶屋 別館
新城カズマ『われら銀河をググるべきや』ハヤカワ新書juice - 三軒茶屋 別館

*1:この「つながり」という要素は新城カズマ作品を語る上で欠かせないキーワードだと思います。