『ライバル おれたちの真剣勝負』(はまなかあき/角川学芸出版)

カドカワ学芸児童名作  ライバル  おれたちの真剣勝負

カドカワ学芸児童名作 ライバル おれたちの真剣勝負

 角川学芸児童文学賞優秀賞受賞作品です。
 父親の夢をかなえるため将棋に打ち込む少年・渡辺リュウ。そんな彼が転校して出会ったのが同級生のマサユキ。リュウは、最初は遊び半分でマサユキに将棋を教えるが、マサユキはみるみるうちに強くなっていく。そんな彼に将棋を教えていくうちに、不振だったリュウ自身の将棋もまたいつの間にか強くなっていることに気付く。二人の実力は徐々に接近し、ついには大会の決勝戦相見えるまでになる。そして……。といったお話です。
 児童文学なので、使われている言葉や表現は平易で分かりやすいものですし、ストーリーもシンプルで分かりやすいものです。しかしながら、そこには将棋の面白さと圧倒的な勝負の熱量と、そして真剣勝負の醍醐味が存分に詰まっています。
 序盤の駆け引き、中盤のねじり合い、そしてぎりぎりの終盤戦。専門用語をほとんど使うことなくこれだけの熱戦が描かれているのはホントにすごいです。また、勝負事というのは文字通り勝つか負けるかどちらかひとつなわけで、その結末は必ずしも勝つばかりではありません。当然負けることだってあります。つまり、少年漫画にありがちな勝つばかりの展開ではなくて、負けることもしっかりと描かれています。で、将棋の場合には、勝ち負けに運や他者の介入といった要素は一切入ってきません。非常に単純明快で厳しい世界です。なので、勝てば全能感が得られる一方で負ければとてつもない無能感に苛まれます。そんな繰り返しの中にこそ成長の物語があります。そうした勝負は一人だけでは絶対に成立しません。必ず相手が必要となります。そうした対局相手として互いに互いを認識し合う本書のストーリーには単なる友情ものを超えた厳しさと緊張感があります。
 「棋は対話なり」という言葉があります。子供に自らの夢を託す父親。しかしそれはやがて子供にとって負担となってきます。その一方で、そんな父親のおかげで将棋が強くなれたのも確かで、そこに少年の葛藤と親子の関係の葛藤があります。そんな二人の間をつなぐのもまた将棋です。
 小学校の教育現場などで優劣をつけることがとかく否定されがちな昨今だからこそ、本書のメインターゲットである小学生のみならず、あえて多くの大人にも読んでみて欲しい一冊です。オススメです。
【参考】「俺の邪悪なメモ」跡地(登場人物の名前の元ネタについてなど。)