羽海野チカ×先崎学スペシャル対談収録『先崎学のすぐわかる現代将棋』(先崎学・北尾まどか/NHK出版)

先崎学のすぐわかる現代将棋 (NHK将棋シリーズ)

先崎学のすぐわかる現代将棋 (NHK将棋シリーズ)

 角筋を通したままの振り飛車の原点は升田式石田流。その後ゴキゲン中飛車が生まれ、さらに四間飛車へと発展をとげます。
 この戦法の背景には、『居飛車穴熊対策』というテーマがあります。角道が通っていればいつでも仕掛けられる。これが最大のメリットです。
(本書p161より)

 本書は、2009年10月から2010年3月まで「NHK将棋講座」で放送された「先崎学のすぐわかる現代将棋」から、「ゴキゲン中飛車」「石田流三間飛車」「角交換振り飛車」の三つの振り飛車戦法についてまとめられた本です。
 今の将棋では、従来からの常識・格言の逆をいく戦法・手順が指されることがままあります。それが「現代将棋」と称される所以ですが、そうした傾向は特に振り飛車において顕著に見ることができます。昔は振り飛車といえば四間飛車のことでしたが、今はプロアマ問わず中飛車が一番人気です。受けてさばく四間飛車から積極的に仕掛けてさばく中飛車へ、が現代の潮流なのです。さらに先手番では石田流三間飛車が新たな流行を見せ始めます。そして何でもありの角交換振り飛車まで登場。”振り飛車には角交換”という格言がありますが、今は”振り飛車から角交換”が当たり前となっています。そんな「現代将棋」の象徴ともいえる三つの振り飛車戦法について、本書は初手から基本的な狙いを説明すると同時に代表的な変化についても分かりやすく解説しています。
 「第一章 進化するゴキゲン中飛車は、「ゴキゲン中飛車の誕生」「5筋位取り中飛車の攻防」「居飛車党の意地▲7八金」「常識を超えた▲2二角成」「ゴキゲン中飛車居飛車穴熊」といった内容です。現代では後手番の代表的戦法といえるゴキゲン中飛車ですが、その定跡には従来では考えられなかった変化が満載です。角道を止めず△3三角と上がらずに角頭を受ける指し方は、他の角交換振り飛車においても応用されています。また、対振り飛車において損とされていた▲7八金。先手に馬を作らせても互角と判断する定跡変化。手損ゆえに忌避されてきた▲2二角成の角交換などなど。何が当たり前で何がそうでないのか分からなくなってきますが、だからこそ面白いです。
 「第二章 よみがえる石田流三間飛車は、「石田流の基本と現代流▲7七銀」「石田流対策の△7二飛と棒金」「超急戦!早石田と新戦法」「△3二飛戦法、新たな可能性」といった内容です。石田流自体は昔からあった指し方ですが、それがなぜ注目されるようになったのか。その理由として▲7七銀から▲8六歩という仕掛けが発見されたのがあります。また、石田流の天敵とされてきた棒金戦法に対して有力な対抗手段も発見されました。『ハチワンダイバー』にも出てきて話題となった早石田と呼ばれる急戦策においても鈴木新手、さらには久保新手が編み出されて新たな可能性が模索されるようになりました。そんな石田流・早石田の現状が説明されています。また、先手初手▲7六歩に対して二手目で飛車を3筋に振って石田流に組む△3二飛戦法というこれまででは考えられなかった指し方も紹介されています。
 「第三章 なんでもあり角交換振り飛車は、「角交換振り飛車の基本と狙い」「単純明快!一手損向かい飛車」「△3三角戦法と最新の対策」といった内容です。やはり『ハチワンダイバー』にも出てきた角道を開けたままの四間飛車。△2五桂ポンと呼ばれる狙い筋。いわゆるレグスペと呼ばれる角交換振り飛車穴熊。さらに四間に振らず(=一手損せずに)直接向かい飛車に飛車を振るダイレクト向かい飛車。そして、居飛車振り飛車の境界を曖昧にする△3三角戦法。それらの多様な指し方について一通りの説明がなされています。特に、角交換振り飛車においては▲6五角問題というのが常につきまとうのですが、その点について丁寧に説明されています。まだまだ馴染みのない戦法だけに戦法の案内書としてとても嬉しい配慮です。
 そして、本書の巻末にはスペシャル対談 羽海野チカ×先崎学八段 「負けました」は、残酷だけど美しい」が収録されています。羽海野チカは将棋漫画『3月のライオン』をヤングアニマル誌上で連載していて、先崎八段はその将棋監修を担当しています。そのつながりでの対談ですが、連載の舞台裏などがいろいろと垣間見えてとても面白いです。

羽海野 公平に一手一手進めていって、自分で悪くなっていくみたいな…あれは、なかなか怖い経験でした。
先崎 しかも、最後に「負けました」と投了する。自分で負けを認めなければならないっていう野蛮(笑)な慣習があって、驚きますよね。
羽海野 遊びというか、気楽にやっていたはずなのに、「負けました」っていう声が裏返るんですよね(笑)。
(本書p209より)

 このように、「負けました」と言わなければいけない世界の厳しさと魅力について、羽海野・先崎両者がユーモアを交えつつたっぷり語ってくれています。また、感想戦大盤解説での棋士の会話の面白さ、藤井九段のダジャレ(笑)、姿かたちからは窺い知ることのできない棋士の強さの味わい深さなどなど。羽海野チカが将棋や棋士のどういった点に着目しながら『3月のライオン』を描いているのかを知る上で格好の資料となっています。また『3月のライオン』で実際の将棋とプロ棋士に興味を持った方には、どういった点に注目してプロの将棋を楽しめばよいのかという指針としても読むことができると思います。いずれにしても、『3月ライオン』の読者であれば読んで損のない対談だといえるでしょう。
 本書は棋書としては入門書、とはお世辞にもいえませんが、初級者向けの比較的易しい内容となっています。そうした観点からも、少しでも将棋に興味のある方であれば気楽に手にとってみて欲しい一冊です。

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)

3月のライオン (1) (ヤングアニマルコミックス)