『蒼林堂古書店へようこそ』(乾くるみ/徳間文庫)

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)

蒼林堂古書店へようこそ (徳間文庫)

 書評家の林雅賀が店長の蒼林堂古書店バツイチで林とは高校の同級生の大村龍雄、高校生の柴田五葉、小学校教師の茅原しのぶといったいつもの面々が集まる日曜日になると、豊富な知識に裏打ちされたミステリ小説とささやかな謎解きの話題で盛り上がる。そんな14ヶ月が過ぎたときに、あるひとつの問題に答えが……といったお話です。
 本書は、「本とも」2009年1月号〜2010年2月号に掲載された作品がまとめられた徳間文庫オリジナル版です。
 一話一話はとてもコンパクトなお話ですが、それでいてミステリの薀蓄が自然かつたっぷりと盛り込まれていて、それでいてちょっとした謎解きまで用意されています。とはいえ、本書は基本的には本の紹介・ミステリのガイドブックとしての役割が主で、謎解き自体は従です。扱われる謎や推理の過程はときにかなりショボイものだったりしますが、そこはご愛嬌ということで。とはいえ、13話「転送メールの罠」なんかは素直に感動してしまいましたが。
 各話の最後には「林雅賀のミステリ案内」として話のなかに出てきた本や話題に即したミステリが紹介されています。実によくできたガイドブックです。ちなみにミステリ案内の表題は、1.ヒッチコック推理小説、2.邪魔が入らない場所、3.土俗信仰から都市伝説へ、4.日常の謎、5.長編連作とつなぎの作品、6.誘拐ミステリの世界、7.共同住宅が舞台のミステリ、8.鉄道事故とミステリ、9.名探偵と犯人の対局室、10.故人の想いを探る、11.猫と童話とミステリ、12.謎の墜落死、13.ミステリアスな女性、14.あの人は正体不明、となっています。お約束的なものから少々着眼点がマニアックなお題まで、実に興味を惹くガイドブックに仕上がっている思います。
 老若男女のミステリ好きが集まってミステリと日常の謎について珈琲を飲んだり猫と戯れながら楽しく会話する光景というのは、これだけインターネットが普及してミステリについてあれこれ議論をすることが可能になっても、いやだからこそ、正直うらやましく思わないでもありません。先達のミステリマニアが若い読者に対して嫌味にならないように接しているのもよいですし、そこはかとないロマンスまで用意されていて、ガイドブックとしてよみならず小説としても後味のよいものに仕上がっています。
 読書というのは本質的には孤独な趣味だと思いますが、それでも、こんな風に人と人とが集まって語り合うための絆として機能し得ます。また、たくさん読むことによる知識の蓄積からはある種の満足感が得られます。そんな読書の素晴らしさまでをも教えてくれる素敵なガイドブックです。オススメです。
 ……と、単純に言い切ることは私には正直できません。というのも、本書の舞台は基本的には古書店で、古書のやりとりから本の話題が膨らんでいくのですが、そこでは新刊書店で手に入る本も普通に安価で取り引きされているのです。それが悪いわけではありません。ありませんが、新刊書店で手に入る本を古書店で安価で手に入れて済ませてしまうという読書ライフがあっさり肯定されてしまうのはちょっと……というのが本音です。
 実は当ブログにはちょっとしたルールがあります。それは、古書店で買ったとか図書館や友人から借りたとは書かない(ただし品切れ・絶版本の場合は除く)、というものです(例外が献本です)。実際には友人から借りて(というか押し付けられて・笑)書評している場合もあるのですが、だとしても基本的には買うべきだから借りたとかいちいちブログに書く必要ないだろう、というのが当ブログのスタンスです。やはり本あっての書評ですし、であるからには作者や出版社にお金が渡るシステムは尊重すべきだと思うのです。別の言い方をすれば、私は本書を古書店ではなく新刊書店で買って欲しいのです。
 そんなちょっぴり真面目なことを思ってしまいましたとさ。