『玉精公記』(大石直紀/小学館文庫)

玉精公記 (小学館文庫)

玉精公記 (小学館文庫)

 本書は、第2回「囲碁マンガ原作大賞」グランプリに選ばれた帯坂篁太郎の作品(原作)が大石直紀によって小説化されたものです。
【参考】第2回「囲碁マンガ原作大賞」審査結果(注:PDFです。)
 お察しの通り、『ヒカルの碁』に続く2匹目の泥鰌を積極的に狙おうという意図の下に設けられたのが囲碁マンガ原作大賞です。それ自体は別に悪いことだとは思いません。『ヒカルの碁』までとはいかなくとも、囲碁を題材とした面白い漫画が描かれれば普及にも役立ちますから今後も是非続けていって欲しいと思います。ただ、本書を読む限りでは、『ヒカルの碁』の存在はあまりに大きいのだなぁと思わざるを得ません。
 三種の神器といわれる玉、鏡、剣。本書では、そのうちのひとつ「玉」が実は碁盤であったという設定になっています。で、タイトルにある「玉精」とは文字通り神器「玉」の精のことです。玉精に選ばれその封印を解いた織田信長は、玉精に導かれるままに天下統一の野望の実現に乗り出すが……といったお話です。
 本書を読了して、囲碁のお話としては微妙だな、と正直思いました。玉精の意志つまりは天意を知るために碁を打ったりしてはいますが、対局自体はそんなに重要ではありません。それに、「玉」と対立する「鏡」が暗躍を始めてからは、信長が「玉」に頼る頻度は極端に減っていきます。なので途中からは、単に信長が主人公の歴史小説と変わらなくなってしまいます。
 とはいえ、本書の主人公はあくまでも信長ではなく玉精です。信長、秀吉、光秀、そして徳川家康といった武将を操る玉精の打ち回しは確かにそれなりに鮮やかではあります。しかし、それをもって囲碁小説といわれるとちょっと……。グランプリというからには囲碁についてもっと真正面から取り扱って欲しかったです。本書は変化球の感が否めません。
 囲碁将棋ファン、あるいは歴史小説ファンが興味本位で手を出す分には損のない作品だと思います。しかし、そうでない方にはオススメするのを躊躇う作品です。
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