「裏(あるいはこれが表)沙村」の集大成『ハルシオン・ランチ』

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

ハルシオン・ランチ 1 (アフタヌーンKC)

はじめまして!
この単行本には夢・希望・生脚ブーツ・・・・・・
そういったものが一杯詰まってます。
人によっては生活のニッチがすごく埋まります。
人によっては新古書店に直行でしょうか。
そういうお前らには後でちょっと言いたいことがあります。
(表紙裏より)

沙村広明と言えば現在も雑誌アフタヌーンで連載されている『無限の住人』が有名です。
不死の侍・万次と両親を殺された凛による壮大な復讐と贖罪の物語。見たこともない剣による活劇と圧倒的画力による魅せゴマが、「ネオ時代劇」という二つ名で評価されています。
この作品が唯一にして最大の長編なのですが、1冊完結の中編や短編などにも定評があります。
竹易てあし名義の『おひっこし』は、モラトリアムのなかラブでコメる大学生の男女たちをギャグ(小ネタ)いっぱいに描いた作品で、未だに「これが沙村広明の最高傑作」と評する人も多いです。
『ブラッドハーレーの馬車』はとある孤児院と刑務所との関係を描いた、子供には一切お勧めできない「残酷な」作品です。
『シスタージェネレーター』はさまざまな短編を織り込んだ「(沙村広明名義では)初の」短編集ですが、クイックジャパンに毎号数ページずつ連載され単行本で見ることは不可能かと思われた時事ネタ短編『制服は脱げない』も収録されていました。
このように長編『無限の住人』では描けない(あるいは描ききれない)嗜好を短編で発散するかに思われる沙村広明作品ですが、今作『ハルシオン・ランチ』はまさにその「裏(あるいはこれが表)沙村」の集大成ともいえる作品だと思います。
あらすじはあってなきがごとしなのですが(笑)一応簡単に説明します。
友人の裏切りにより無一文になった中年男・化野元が知り合った女の子、ヒヨス。この少女は手にした箸で何でも食べることができ、しかも食べたものを嘔吐することによりそれらを「混ぜてしまう」という不思議な能力を持つ女の子だった。。。というお話です。
基本的にSF風味のコメディーなのですが、『おひっこし』を思わせる小ネタ(パロディ)がこれでもかこれでもかと盛り込まれています。
*1
毎コマに小ネタを散りばめているのかと思わせるぐらい密度が濃い一方、「魔獣召喚でジェノサイド余裕でした」「何!?その『ザ・フライ』のラストシーンみたいな反応」といった独特の台詞回しが非常に小気味よいです。
一方で『ブラッドハーレーの馬車』を思わせるぐらいグロいネタ(描写)もあったり、美少女が嘔吐するなどというニッチなフェチもまた沙村節といえましょう。
*2
また、
*3
と作者が自虐するほど「時事ネタ」がふんだんに盛り込まれています。民主党、美人すぎる議員、エグザイルなど風化することを意に介さない気っぷのよい時事ネタの投入っぷりは、『制服は脱げない』を思わせます。
このように、『無限の住人』「以外の」沙村広明作品も*4好きな方ならハマること請け合いの一冊。2巻以降も続くという「長編」でもあり、個人的にははやくも2010年のベストに位置する作品です。
濃ゆくてニッチなため万人にはお勧めできませんが、だからこそ破壊力のある一冊だと思います。

無限の住人(1) (アフタヌーンKC)

無限の住人(1) (アフタヌーンKC)

竹易てあし漫画全集 おひっこし (アフタヌーンKC)

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ブラッドハーレーの馬車 (Fx COMICS)

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シスタージェネレーター 沙村広明短編集 (アフタヌーンKC)

シスタージェネレーター 沙村広明短編集 (アフタヌーンKC)

*1:P62

*2:P80

*3:P115

*4:あるいは「が」