新城カズマ『15x24イチゴーニーヨン link one 「せめて明日まで、と彼女は言った」』集英社スーパーダッシュ文庫

『サマー/タイム/トラベラー』で第37回星雲賞を受賞した新城カズマが以前よりblogで話していました、「原稿用紙3000枚」「執筆2年、刊行までさらに2年」という大長編がついに刊行されました。
15x24」と題したその小説は、これまでの著者の作品とはまた異なった趣を見せています。
一巻を読んだ印象を一言で言うと、「蓬莱学園シリーズ」+「24」+「汝は人狼なりや?」というフジモリの好みにどストライクな作品でした。
本来であれば続き物の作品ですから全編読み終わったあとに書評を書くのがベターかもしれませんが、本書の「ライブ感」を重視し、1巻読み終わるごとに書評していこうと思います。

本作『15x24』は、ある少年が自殺を決意したところから物語が始まります。
ネットで知り合った少女(と思われるハンドルネーム)と心中を図るため、大晦日の朝早く家を出る第一の登場人物・徳永準。それを尾行する第二の登場人物・伊隅賢治。伊隅は、「死」の瞬間が見たいがために徳永を尾行します。しかし、徳永は待ち合わせ場所である新宿の路上で道すがら女スリに財布とケータイを盗まれてしまいます。
そして誤送信される徳永の「遺書メール」。
彼の自殺を止めるため、様々な思惑を持って登場人物たちが錯綜・疾走・奔走する・・・というお話です。少なくとも1巻時点では。
多視点から紡がれる一人の少年の「死」を巡る物語はまた、カメラの切り替えの度に次々と事態が進んでいく「ライブ感」「疾走感」を読者に与えます。
あえて例えるならば、同著者の作品『蓬莱学園の初恋!』や『蓬莱学園の犯罪!』で描かれた群像劇の部分のみ抽出し、煮詰め、「現代」にカスタマイズした語り口という印象を受けました。
東京を舞台にした壮大な鬼ごっこ、あるいはかくれんぼ。
ターゲットは自殺志願の少年。ただしケータイを持っていないため位置の判明や捕捉は困難。
「追う側」もそれぞれの思惑を持っており、また彼の自殺を阻止する側、進める側と複雑な陣営模様。
1巻ではこの「ゲーム」のルールや登場人物、そして各々の「勝利条件」がわかり、物語が動き始め読者が物語世界を「体感」するにふさわしい幕開けで次巻に続きます。
これからこの物語がどのように進むのか、著者のファンのみならず多くの人に読んでもらいたくなるような小説です。2巻も続けて楽しく読ませていただこうと思っています。
link two 「大人はわかっちゃくれない」書評
link three 「−−−裏切者!」書評
link four 「Riders of the Mark City」書評
link five 「ロジカルなソウル/ソウルフルなロジック」書評
link six 「この世でたった三つの、ほんとうのこと」書評
新城カズマ『15x24』感想リンク集 - 三軒茶屋 別館