『とある飛空士への恋歌 2』(犬村小六/ガガガ文庫)

- 作者: 犬村小六,森沢晴行
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2009/07/17
- メディア: 文庫
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図らずも敵同士になった過去を持つ二人ですが、その生い立ちはまさに対をなしています。二人の出会いは、身も蓋もない言い方をしてしまえば”天空翔るロミオとジュリエット”というベタなプロット上の要請にすぎませんが、一方で惹かれ合うだけの過去を互いに背負っていることも間違いありません。
本書ではカルエルやアリエルにクレア、そして新たな仲間たちと出会いともに学ぶことになるカドケス高等学校飛空科での学校生活が描かれています。親元を離れた若者たちが集まって友情を育んだり反目し合ったりするのはまさにお約束の展開ですが、そんなベタな展開の中心となっているのが「料理」です。ラーメンやカレーといった日本人の読者なら大抵は好きであろう料理を持ち出すのは卑怯な気もしないではないですが、胃袋を押さえられてしまっては作中の学生たち同様に読者としても納得しないわけにはいきません(苦笑)。
冒頭の「ぼくはね、昨日、気持ちの持ち方を変えたのさ。文句言いながら旅をするより、多少無理をしてでも楽しそうな要素を拾い上げて、明るい気持ちになったほうがいいって。どう? きみにこんな考え方、できる?」(本書p40より)というのは『愛少女ポリアンナ物語』の”よかった探し”に通じていますが*1、ライトノベルでありながらどこか児童文学らしさが意識されているのが飛空士シリーズの特徴です。ことあるごとにアリエルからヘタレヘタレといわれているカルエルは、確かにヘタレではあるのですが(笑)、ですが、気になる人の前で一生懸命頑張って何とかしようとする姿はまさに物語の王道です。ベタといえばベタですが確かな面白さがあります。
いくら神様が残酷でも――そんなふうに人の運命を意味なく弄んだりはしない。
(本書p175より)
ですが読者は知っています。作者という名の神様はときに残酷であることを。二人を待ち受けている運命に果たして意味があるのか、それとも、ただ弄ばれているだけなのか。本書の最後で物語に急を告げた出来事と共々、続きが楽しみです。
【関連】
・『とある飛空士への追憶』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『とある飛空士への恋歌』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『とある飛空士への恋歌 3』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『とある飛空士への恋歌 4』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『とある飛空士への恋歌 5』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館
・『とある飛空士への夜想曲』(犬村小六/ガガガ文庫) - 三軒茶屋 別館