渡辺久信『寛容力』講談社

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~

寛容力 ~怒らないから選手は伸びる~

実はフジモリは子供の頃からの西武ファンです。森監督率いる「西武黄金時代」をもろに直撃体験していたることが理由なのですが、『かっとばせ!キヨハラくん』の影響も否定できません(笑)。
西武黄金時代の投手陣の一角を担っていたナベQこと渡辺久信ですが、現在西武ライオンズの監督として若い選手たちを引っ張っています。
彼が就任した当時は、前の年に何十年ぶりかのBクラス落ちを味わい、また裏金事件で球団の印象もガタ落ち。
そういった最悪のスタートの中、若き渡辺監督は見事西武ライオンズを日本一に導きました。
この本では彼の現役時代から監督に至るまでの経歴と、指導モットーについて語られています。

渡辺久信監督は、現役時代は速球派でならし、広岡、森、東尾の3名の監督のもとで西武の投手陣の屋台骨を支えていました。年とともに速球だけでは通用しなくなり、ヤクルトに移籍。そこで「再生工場」こと野村(現・楽天監督)監督のもと投手していましたが野村監督の解任とともに自身も引退。その後指導者として台湾野球に主戦場を移します。
数々の監督の元で指導を受けることでそれぞれの監督の考えにふれ、また台湾という言葉も満足に伝わらない場所での指導経験が、のちの監督業に活かされることになります。

彼の指導モットーは大きく分けて3つ。
・相手の目線に立つ
・対話を重視する
・プロセスを重視する
まず大切なのが、相手の目線に立つこと。

今の選手たちは、僕らのような時代には生きていません。ですから、指導している際にいきなり頭ごなしにいわれてしまうと、それだけでもう拒否反応を示してしまう。それが続くと、だんだん選手からコーチのほうに近づいてこなくなる。そんな光景が展開されてしまうのです。
そういうわけで、指導の際にはとにかく「言い方」が重要になってきます。
守備練習の際に良くないところを指摘したり、注意をするにも、昔のように
「おまえ、何をふにゃふにゃいぇっているんだ。そんなんじゃエラーするぞ」
とか、
「ヘタクソだな。手本を見せてやるからグラブを貸してみろ」
などと言うのではなく、
「そのやり方だとこういう理由でエラーをする確率が高くなるから、こうしたらどうだ」
とか、
「僕が現役時代でプレーしたときはこういうふうにやっていたんだ。ちょっとグラブを貸してくれ。やってみせるから」
というように。言い方次第で、選手たちがそのアドバイスを素直に受け入れられるかどうかが決まってくるのです。(P23,24)

いわゆる上からのお仕着せではなく、相手の考え方や立場を理解したうえで相手に合わせた指導をすること。相手を理解するためには対話が不可欠であり、実際渡辺監督は移動中や練習の合間などちょっとしたときに選手と会話し、コミュニケーションをとるよう心がけました。
そしてさらに重要なのが、「過程を重視する」こと。
もちろん野球という勝負の世界では、結果ありきです。どんなに惜しい試合でも負けは負け。言い訳を言っても結果が覆るわけではありません。
しかし、だからこそ渡辺監督は「結果」を最優先にせず、「過程」を重視します。
例えば、「積極的な走塁」を意識づけているときに、試合中に走塁が間に合わずアウトになったとします。そのときに、「なぜアウトになるような走塁をした!」と結果論で怒ることは簡単です。しかしそうしてしまうと選手の積極性を削いでしまう。
この場、この時、この試合だけの「結果」を見て選手を褒めたり叱ったりするのではなく、将来的な「結果」を見据えて「過程」を褒め、叱るのです。
その結果、西武ライオンズは積極的な走塁、積極的なフルスイングという攻撃的、積極性のあるチームに変貌を遂げたのです。



彼の指導モットーは、野球のみならず、ビジネスの世界でも通用する内容です。
部下、後輩の指導に際し、一方的な押しつけではなく、相手の目線に立ち対話を重視し、結果のみを取り上げて怒るのではなく過程を重視する、というのは、まさしくその通りだと思いました。
実際、フジモリも自身のコーチングの場面に置き換えて読み進めましたし、これまでの考え方を改めようと身につまされた箇所もありました。
西武ファン、野球ファンのみならず、部下、後輩を指導する役割にある人たちは読んで損がない一冊だと思います。オススメです。