「名言」とは「物語」である。

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

名言力 人生を変えるためのすごい言葉 (SB新書)

大山くまお『名言力』を読みました。
内容は、ガンジーからイチローから『らき☆すた』まで、古今東西の「名言」を紹介・説明している一冊です。さまざまなシチュエーションごとに「名言」を紹介し、人生の指標にしてもらおう、というコンセプトであり、それぞれの名言に対する説明に多く筆が割かれています。
まあ、「名言「力」ってのはなんだかなぁ」とか、名言のチョイスなど、思うことは多々ありましたが、名言好きのフジモリには楽しめた1冊でした*1
で、この本を読みながら「名言」についてフジモリなりにつらつら考えたので備忘録代わりに描いておこうかな、と思います。
(以下、長々と)

名言と格言の違い

名言と格言の違いとは?
「名言・格言集」など、けっこうこの2つはワンセットとなっており、明確に使い分けしている人は少ないかと思います。wikipediaさんも「名言」と入れると「格言」に飛ばしちゃうぐらい両者は同一視されているのが現状かと思われます。
一応Yahoo辞書(大辞林)では、

名言 事柄の本質をうまくとらえた言葉。

格言 人生の真実や機微を述べ、万人への戒め・教訓となるような簡潔にした言葉。

とあります。
フジモリなりにあえてこの2つを区別するとすれば、「名言は事象を示した言葉、格言は行動を示唆する言葉」なのではないかと考えています。名言は「地球は青かった」など事実をそのまま切り取っているのに対し、格言は「王の早逃げ八手の得」など、「こうした方が良い」という啓蒙が含まれているように感じます。
つまるところ、「格言」は人生の指針を直接指し示している言葉であり、「名言」は「受け手が」人生の指針を汲み取る言葉なのではないかな、と。
『名言力』の著者も、インタビューで

基本的に僕も含めて今の世の中に「生きづらさ」を感じている人が読んで、何かを感じたり、具体的な行動に結びつけたりすることができるような名言を集めました。

と言っています。
【大山くまお氏インタビュー】名言の力を借りて、生きづらい人生をサヴァイヴする |ビジネス+IT
「名言」は単なる事象にしか過ぎず、そこから人生のヒントを得るのは「受け手しだい」だと言えるかと思います。

名言は物語である

名言は、もちろんそれ単体でも充分受け手に訴えかける内容かもしれませんが、基本的には「発した人物」「発したシチェーション」が存在することで「名言」が「名言」たりえると思っています。
例えば、先ほど例に出した「地球は青かった」という名言。これは、「ガガーリンという宇宙飛行士」が「人類初の宇宙飛行を成功させたときに発した言葉」だからこそ名言なわけで、気象衛星ひまわりからの映像を見ながらフジモリがコタツで呟いたとしても残念ながら「名言」にはなりません(笑)。
その言葉単体ではごく普通のことを言っていたとしても、発言者やシチュエーションしだいで「名言」になる場合があるのだと思います。
「名言」とは、その言葉単体で味わうのではなく、その言葉を発した人物やその背景も全てひっくるめて「名言」なのだと思います。
すなわち、「名言」とは極度に圧縮された「物語」なのです。

名言リサイクル

名言というのは、その言葉から受け手が何かしら教訓を得るという「受動的」な役割と、引用して他人に教訓を伝えるという「能動的」な役割があると思います。
『名言力』では前者に重きを置いているからか、「これは是非とも引用したい!」という名言は少ないように思えました。
「他人に伝える」という名言の効力や役割については、手前味噌ではありますがフジモリはこう考えています。

 名言・格言をというものは兎角アレンジして使われる場合が多いです。「AのAによるAのためのB」とか、「AはBの上にBを作らず、Bの下にBを作らず」などと言えばその元ネタがぱっと思い浮かぶことでしょう。
 興味深いのは、名言から「伝えるべき内容」を除いてなお、元ネタが分かる、という点です。先ほどの「AのAによるAのためのB」を例に取ると、重要なのは「人民の人民による人民のための政治」という内容なのに、「名言」として認知される部分は「人民」「政治」を除いた部分なのです。
 これは、ガラス瓶のリサイクルをイメージしていただければ分かりやすいかと思います。飲み物=コンテンツですが、器=その他の部分とすると、飲み物を入れ替えるだけで新たな「名言」として再利用することが出来ます。「名言」にはためになるコンテンツだけではなく、再利用に耐えられる強度を持った「言い回し」も必要である、と考えられます。後世に残る名言を残したいと考えられている方は、内容だけでなく言い回しにも気をつけてみてはいかがでしょうか。
森博嗣『MORI LOG ACADEMY 11』p344,345)*2

フジモリの私見ですが、名言とは「使ってみたくなる言葉」であり、そのためには伝達に耐えられる「体型」や「強度」が必要かと思っています。
つまり、「覚えやすい」「わかりやすい」「喋りやすい」など「伝えやすさ」としての「スタイル」と、主題を他の言葉に入れ替えてなお元の名言がわかる「構造」を持つことが、後世に残る「名言」の条件なのだと思います。
そういう意味では、口伝されるうちにフォーマットが定まっていく「物語」と、やはり親和性があるのかと思います。
名言になぜ人は惹かれるのか、それはすなわち、物語になぜ人は惹かれるのかと同義であるのかもしれません。

*1:ただし、それぞれの名言の引用元は書かれていないため、活用するには原書を当たらなければなりませんが。

*2:この記事はフジモリが『MORI LOG ACADEMY』市民講座に応募して採用された文章です。念のため。