河原和音『青空エール』集英社

青空エール 1 (マーガレットコミックス)

青空エール 1 (マーガレットコミックス)

 憧れだった北海道白翔高校に入学した、主人公・つばさ。彼女の夢は、いつかトランペットで甲子園のスタンドに立って野球部を応援することだった。入学式の日、吹奏楽部のトロフィーを眺めていたつばさは、同じく野球部のトロフィーを見つめている男子・山田大介と出逢う。。。というお話です。
別冊マーガレット』に連載されているので一般的に言えば少女漫画なのでしょうが、非常に良質な青春漫画。面白かったです。
 主人公・つばさは、中学校までは常に自分に自信が無く下を向いてばかりの性格でした。しかし、野球部に入って甲子園を目指す男子・山田大介と出会い、自身の夢を「応援」されます。

 吹奏楽部の強豪校でもある白翔高校。初心者のつばさが入部し、部の一員となるためには想像以上の困難が付きまといます。
何度も壁にぶち当たり、思わず下を向いてしまう主人公。しかし、大介が靴に書いたお守りが彼女の「下を向く性格」を徐々に治していきます。


この、大介というキャラが非常にポジティブで、嫌味なく主人公のうつむく気持ちを前向きにさせます。自らもキャッチャーとして甲子園を目指す、自分に厳しい完璧超人みたいな人間です。しかし、当然ながら彼にも悩みがあったり壁にぶち当たったりするわけで、彼にとっては逆につばさの存在が彼を救っている部分もあります。
 この二人の関係性が非常に良くできており、最初は大介の存在が一方的につばさのエネルギーになっている(ようにみえる)のですが、物語が進みつばさが成長していくにつれ、その「成長していく姿」が壁に当たった大介の支えになっていきます。困難から逃げずに正面から向かうことを説く大介と、大介のアドバイスに応え遅々とした歩みながらも成長していくつばさ。お互いの存在がエネルギーになる、まさに互恵関係といえます。読了後は読者の中にも前向きな力が湧いてくることでしょう。
 音楽部活漫画という視点から見ても、良くできていると思います。本作で描写されている吹奏楽部ですが、「いかにも」な感じで納得の描写。なにが「いかにも」なのかというと、音楽部活の「体育会系」の側面がしっかり出ている、ということです。
 音楽部活経験者(特に吹奏楽、合唱など「息」を使用する部活))は、当然ながら良い音、良い声を出すために基礎体力の向上は欠かせません。腹筋、背筋、腕立て伏せ、走りこみ*1などなど。また、先輩が後輩に技術を教える縦社会(一子相伝の伝統工芸がイメージに近いかも)であり、コンクールを目指すためには当然ながら厳しい指導が入ります。ある意味、同じ音楽部活でも『青空エール』の吹奏楽部と『けいおん!』の軽音楽部(あるいは『うらバン!』の吹奏楽部)とでは非常に対照的かもしれません。
 そういう意味では、つばさも大介は部活こそ違えど、同じ道筋を歩んでいっているといえます。もちろん初心者のつばさと有望なレギュラー候補の大介とではポジションが違うかもしれませんが、悩みや壁など共通する部分も多く、それゆえにお互いがお互いの気持ちを理解し支えることができるのかもしれません。
 成長していくにつれ、彼女の「夢」も変わっていきます。そして、成長することで新たな「壁」にぶつかります。つばさの成長、そして二人の関係が今後どうなっていくのか、爽やかな気持ちで続きを楽しみにできる一冊です。少女漫画ではありますが、性別問わずオススメできる漫画だと思います。

*1:映画『スゥィング・ガールズ』でもありましたよね