『シートン(探偵)動物記』(柳広司/光文社文庫)

- 作者: 柳広司
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2009/03/12
- メディア: 文庫
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「生きた野生動物たちとつきあうというのは、目の前のごくささいな事実、たとえば足跡といったものを注意深く観察し――実際、足跡ほど個々の動物に特徴的なものはないのですが――、また推理を働かせることにほかならないのです」
(本書p10より)
『動物好きに捧げる殺人読本』(パトリシア・ハイスミス/創元推理文庫)という短編集があります。この本は、タイトルどおり動物が人間に害をなす作品集ですが、その内容は”動物好き”というよりはむしろ”人間嫌い”に捧げるといいたくなるくらい底意地の悪いものです(笑)。また、動物側の視点で描かれているという面白さはあるものの、人間側が機智を利かせるようなお話ではありません。そのため、ミステリとしては正直あまりオススメではありません。
その点、本書『シートン(探偵)動物記』は一味違います。本書の主人公にして探偵役は『シートン動物記』の著者で知られるシートンです。ナチュラリストであるシートンは、人間中心のものの見方に異議を唱える一方で、動物中心にものを見るようなこともしません。動物の習性を題材にしつつも、人間によって引き起こされた難事件を解決するという方向で一貫しています。巻末の解説の言葉をそのまま借りれば、『シートン動物記』と『シャーロック・ホームズの事件簿』の妙が一冊で堪能出来るお得な一冊ということになりますが、確かにポーの『モルグ街の殺人』より、ミステリにおいて動物はトリックとして重要な役割を担ってきていますし、そういう意味で本書は正統派のミステリといえるのかもしれません。
ただ、本書がミステリとしてフェアな作品かとなると、ちょっと微妙な気もします。というのも事件の解決が結局はその動物についての知識の有無の一点にかかってしまっているのです。なので、ミステリを読んでるというよりはクイズを解かされる感覚に近いです。でも、長編でそれをやられると壁に投げつけたくもなりますが、短編であれば小気味よく次から次へと読めてしまいますし、ミステリ風の動物豆知識集といってもいいかもしれませんね。推理の思考は、事件の解決よりはむしろ動物を観察し、その習性を理解する際に発揮されています。作中における謎との兼ね合いではアンフェアかもしれませんが、推理という物事の考え方については含蓄のある読み物に仕上がっているのが本書の特徴だといえるでしょう。
以下は各短編についての雑感です。〈カランポーの悪魔〉は狼王ロボとの対決の最中に出会った殺人事件の解決です。私が『シートン動物記』を読んだのは遠い昔のことですが、もう一度読んでみたくなりました。〈銀の星〉は頭のいいカラスの話。すっかり嫌われ者になってしまっているカラスですが、なればこそ本作のシートンのスタンスが面白いです。〈森の旗〉はリスの話。物語の枕詞として語られる真実とは別のものを真実と思わされる恐怖は肝に銘じたいものです。〈ウシ小屋密室とナマズのジョー〉は短編1本の中に小ネタが2つ収録されています。まさにクイズ感覚です。〈ライヤル。アナロスタン失踪事件〉は猫の話。余談ですが猫を題材としたミステリはたくさんありますよね。〈三人の秘書官〉はどんな動物が題材となってるかを言ってしまうとネタバレになってしまうのでノーコメントで(笑)。〈熊王ジャック〉はタイトルどおり熊のお話。人間と自然との関係のまとめとして本書の結末を飾るに相応しい一品です。”僕のものはきみのもの、きみのものは僕のもの”という作中人物の台詞(イギリスのことわざですが)と、人間と自然動物との共存とのさり気ない対比が光ります。

- 作者: パトリシアハイスミス,榊優子,中村凪子,吉野美恵子,大村美根子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1986/03
- メディア: 文庫
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