『バクマン。』と『まんが道』と『タッチ』と。 『バクマン。』2巻書評
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/03/04
- メディア: コミック
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2巻ではサイコー・シュージンがジャンプ編集部に原稿を持ち込み、二人のまんが道を大きく左右する人物、服部編集者に出逢うところから始まります。「異端」で行くという自身たちの方向性を固め、努力しながら作品を仕上げ、いよいよ赤マルジャンプデビューへ。
ライバル・新妻エイジに勝ちアンケートで1位をとり連載化をもくろむ二人を待ち受けたのは、アンケート結果3位という非情な現実(3位といっても充分な結果なのですが)。二人は「王道マンガ」を目指すことを決意。原稿を川に投げ捨て、リベンジを誓う。。。というところでこの巻は終了。
重要人物との出会い、デビュー、挫折とこれまた王道かつベタな展開で楽しめました。
多くの読者が指摘されていますが、2巻の最後でサイコーが原稿を川に投げ捨てるシーン。
*1
これは、藤子不二雄A『まんが道』1巻でのクライマックスシーンのオマージュです。
『まんが道』では、漫画家デビューを目指し活動を続ける主人公である満賀道雄・才野茂の二人が、「神様」手塚治虫宅に訪問します。
二人は描いた作品を見てもらおうと目論みますが、手塚治虫のマンガに賭ける情熱や姿勢を目の当たりにし、自身の未熟さを痛感します。
そして帰りの汽車の中で、再起を誓い原稿を窓から投げ捨るのです。
*2
『バクマン。』『まんが道』とも自らの未熟を思い知り「それまでの自分」と決別する儀式として原稿を投げ捨てています。
もともと『バクマン。』そのものが『まんが道』のオマージュであり、作者自ら『まんが道』を意識した発言をしています。
『バクマン。』の企画を初めて聞いたとき、率直な感想は?
小畑 リアルな漫画道。『ジャンプ』が舞台という着眼点に面白そうな気配を感じました。
(『QuickJapan vol81』P55)
とはいうもののやはり現代風のアレンジがされており、舞台を戦後の地方都市から平成の都心に移し、主人公の血縁に漫画家を配するなど、「マンガを描く環境」が最初から「与えられて」います。これは環境獲得のための手番を排し物語をスムーズにすすめるための手法であると同時に、主要読者層である子供たちの現状を精確に切り取っているとも言えます。
そして最大の差異点が、漫画家になるための動機。『まんが道』ではマンガを描くことが好きな二人が必然的に漫画家になることを目指していくのに対し、『バクマン。』では主人公たちの夢を実現する手段として「漫画家」という選択肢が選ばれています。これは「漫画家」という職業が特殊なものではなく「プロ野球選手」や「アイドル歌手」、はたまた「公務員」などと同列の存在であるのだ、という書き手(編集者含む)のイメージ戦略なのだろうと考えられますが、それと同時に「好きな娘に思いを伝えるため」に漫画家を目指すという展開そのものが「スポーツマンガ」を踏襲していると言えるでしょう。
フジモリが真っ先に思い浮かべたのが、あだち充『タッチ』の
*3
これ。もともと『タッチ』はいわゆる「スポ魂マンガ」と異なり、主人公のモチベーションの源に「恋愛要素」を入れるという、それまでのスポーツマンガとは全く異なる流れを作り上げました。
「野球」や「甲子園」は、七○年代まではそれ自体が少年たちの戦う目的でしたが、この作品(フジモリ註:『タッチ』のこと)であだち充は、「女のために野球をやる」という主人公を明確に描きます。
(ササキバラ・ゴウ『<美少女>の現代史』講談社現代新書、P90)
『バクマン。』もまた、主人公がマンガを描く動機は「好きな人のため」です。
*4
最近のスポーツマンガでは主流となっている「好きなあの娘のために頑張る」という素材を取り込むことで、「漫画家マンガ」というどちらかといえばマイナーなジャンルをあたかも「スポーツの1種目」と同じような位置づけに押し上げたテクニックは巧いなぁ、と感心させられます。
『まんが道』と『タッチ』など、ベタな展開を混ぜながら「続きが楽しみなマンガ」としてうまく昇華している『バクマン。』。3巻も楽しみに待ちたいと思います。
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- 作者: 藤子不二雄A
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- 作者: あだち充
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- 作者: ササキバラゴウ
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