「被著作人権」に至るたった幾つかの冴えてないやりかた

フジモリが以前書いた記事「絶望した!現実とフィクションの区別がつかない大人たちに絶望した! - 三軒茶屋 別館」を新城カズマ氏にブクマしていただきました。わーい。
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返歌として、「被著作人権」について考えたことをつらつらと書いていきたいと思います。
とはいうもののフジモリが苦手な「法律」ジャンルですので、事実誤認や不備がありましたら即座に修正しますです。

「被著作人権」とは?

2006年星雲賞も受賞しました新城カズマが書くタイムトラベルSFの傑作『サマー/タイム/トラベラー』において、未来の社会について以下のように書かれています。

ゲームとアニメと映画の区別がつかなくなって、架空世界の情報量は不可逆的に増大した。おかげで、自然人と法人に加えて「被著作人」という枠組みもできた。(新城カズマ『サマー/タイム/トラベラー2』p305)

それが原因で、「被著作人の人権」闘争が起こった、とも書いてあります。
この「被著作人」については未来の世界に存在する一概念としての「社会的虚構(ソサイエティ・フィクション)」のワンセンテンスとして流されていますが、実際に今後いくつかの条件が重なれば成立しそうな概念(権利)になるかも、と思います。
「被著作人権」とは「被著作人の人権」を指すフジモリの造語です。まあ、「被著作人」という単語もまだほとんど知られていないみたいですが

「被著作人権」が成立するためのいくつかの条件

http://www.kamisama-tasukete.com/archive/genkokutekikaku.htm
上記訴訟では、自然を破壊するリゾートホテルの建設を中止させるため建設予定地に住んでいる動物を原告として訴訟を起こしています。
しかしまあ当然のことながら訴えは却下。理由は、

当事者能力を有しない者を原告とする不適法なもの

だからです。
当事者能力とは何か、とwikiで調べたところ、

当事者たりうる一般的な資格のことを当事者能力という。実体法上権利能力を有すれば当事者能力を有するが、そうでなくとも当事者能力が肯定される場合がある(法人格のない社団及び法人格のない財団、民事訴訟法第29条)。

とあります。ざっくり解釈では現実に存在しない人は当事者にはならない、と言うことであり、一方で存在さえしていれば訴訟能力が無くても後見人などが訴訟できる、と言うことなのでしょうか。このへんはよくわかりません。アイヨシへるぷー(笑)。
【参考】当事者 - Wikipedia
一方で、存在しない当事者を「存在」させる事例・運動もあります。
以前フジモリが書いた記事
絶望した!現実とフィクションの区別がつかない大人たちに絶望した! - 三軒茶屋 別館
で揶揄しましたが、アニメやマンガなど架空の児童を対象としたポルノを「準・児童ポルノ」として規制しようという動きがあります。
アニメ・漫画・ゲームも「準児童ポルノ」として違法化訴えるキャンペーン MSとヤフーが賛同 - ITmedia NEWS
まさにこの運動は存在しない当事者を「存在」させる行為であり、「被著作人権」成立と一番近いところにある運動だと思います。
また、
住民票を持っている変り種キャラクターを探しています。 例えば… - 人力検索はてな
この記事にあるように、存在しないキャラクタに「住民票」を付与する自治体もありますよね。
この辺が巧く複合すると、存在しないキャラクタによる「訴訟」が可能になるでしょうし、当事者と言う「存在」を与えられる可能性も否定できません。
とはいうものの、現状ではやはり非常識すぎて、「存在しないキャラクタを原告とする訴訟」が「勝訴」することによる「被著作人権」への萌芽は難しいと思います。
しかしながら、「存在しないキャラクタを原告とする訴訟」の「勝訴」に繋がる大きな懸念があります。
有名な著作物の保護期限
名前を出すだけでも恐ろしい、『さよなら絶望先生』でもよくネタにされる、著作権と言えばこのキャラ!、という某ネズミ様がいらっしゃいます。いろいろと著作権を延長しようとしていますが、やはり限界が来るでしょう。
ミッキーマウスは誰のもの? 著作権の「寿命」を争う裁判が最高裁で始まる | 日経 xTECH(クロステック)
このネズミ様以外にもあと10〜20年ぐらいしたら著作権が切れるキャラクタが多数存在します。これまで、二次創作物に対し「著作権」を武器に規制・訴訟してきた会社は、著作権保護が切れたあとに「被著作人権」を持ち出してくる可能性が無いとは言い切れないと思います。
財力、体力がある訴訟元に「存在しないキャラクタを原告とする訴訟」をされた場合、裁判官がどのような判断を下すのか。そのころは民事裁判にも裁判員制度が適用されたりして。。。

というわけで

現在の「被著作人」に関する様々な現象を踏まえると、「被著作人権」が誕生してもおかしくは無い「下地」ができているかも、というのがフジモリの所感です。
「被著作人権」に関する新城カズマ氏の見解を伺いところでもありますし、ブクマコメにある「被著作人ネタのSF連作短篇」も読んでみたいなぁ、と一読者として無責任な期待を抱いております。
勉強不足の点もあり十全な内容とは言えませんが、まあ、当記事が「被著作人権」に対する皆様の興味喚起や議論の叩き台となれば幸いです。
【参考】初音ミクとコンピュータ創作物について:栗原潔のテクノロジー時評Ver2:オルタナティブ・ブログ

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