『バクマン。』と『DEATH NOTE』を比較して語る物語の「テンポ」と「密度」 『バクマン。』1巻書評
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/01/05
- メディア: コミック
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単行本で読むと非常にテンポが良く、1巻の最後ではすでに持ち込み用原稿を描くなど、
「漫画家になりたい少年」の話を描きたかったのではなくて、あくまでも「漫画家」を描きたかった(QuinckJapan2008年12月号P56、担当編集相田聡一インタビューより)
という原作者・大場つぐみの思いが伝わってきます。
このQuickJapanの担当編集インタビューで、大場・小畑コンビの前作『DEATH NOTE』を引き合いに出し、『バクマン。』の展開の速さ、密度の濃さについて話をしていましたので、ふと興味が湧いて両者の1巻の進行度を比較してみることにしました。どちらも1巻は7話まで収録していまので、1巻の時点での「物語の展開」を比較する目安となるかと思います。
第1話
『DEATH NOTE』の第一話では、人間界に退屈した夜神月と死神界に退屈したリュークとの邂逅が描かれています。一方、『バクマン。』でも
つまらない未来
生きていることは面倒くさい(『バクマン。』1巻P11)
と人生を斜に構える主人公・真城最高と高木秋人との邂逅を描いています。月は1話の最後で「新世界の神になる」と宣言し、最高は「漫画家になる」と宣言。1話にして主人公たちの目的や出会いを詰め込んでいます。
第2話・第3話
『DEATH NOTE』の第2話ではラスボス(笑)である「L」が登場します。「L」が月こと「キラ」を探し出すのが先か、キラがLを殺すのが先か。この漫画における、「勝利条件」が明示されました。
『バクマン。』第2話では最高と秋人、そしてヒロイン亜豆のキャラを掘り下げていきます。キャラ説明で終わりかと思いきや、「漫画家になる」ことを家族に認めさせるというイベントが発生します。第三話で叔父の仕事場を引き継ぎ、漫画家への決意をあらたにします。
一方、『DEATH NOTE』第3話では警察庁刑事局局長である月の父親が登場。
下手を打てば…
キラは…
自分の家族を殺すことになる(『DEATH NOTE』1巻P109)
と、同じ「家族」を描きながらも自身の目的のためなら家族を殺すことを厭わない月(=キラ)の決意を浮かび上がらせます。
第4話・第5話
『バクマン。』第4話では最高の叔父と亜豆の母との関係について描かれています。二人の恋の行方を知り、最高は「漫画家になる」という夢へのモチベーションをアップさせます。そして第五話では夢に向かって努力する様子をこれまた丁寧に描き込み、「夢を叶えるための手法(この場合「漫画の描き方」)」について筆を割いています。
一方『DEATH NOTE』では第4話で月の持つ「デスノート」をいかに隠すかに筆が割かれ、第5話では「死神の目」というルールが新たに提示されます。こじつけかもしれませんが、ある意味、これも「夢を叶えるための手法」の提示と言えましょう。
『バクマン。』第5話の最後で新妻エイジが登場。ただし、『DEATH NOTE』と異なり彼は「倒すべき敵」ではありません。小ボスを倒しながら「L」を倒すという目標がある『DEATH NOTE』と、「まんが道に終わりはない」、つまり倒すべき敵のいない『バクマン。』との大きな差異点であると思います。
第6話・第7話
『バクマン。』第6話では新妻エイジのキャラを読者に印象付けるのと同時に、「漫画家になる」ための重要項である「編集」について語られます。ジャンプ編集部に持っていくための原稿を描く二人。第七話の最後、つまり1巻の最後では出来た原稿をジャンプ編集部に持って行くところで終わります。2巻ではいよいよ最高と秋人が編集との出会いを通じ「夢=漫画家」への階段を上っていきます。
『DEATH NOTE』第6話ではまたもや「デスノート」の新たなルールについての提示があります。このルールをもとに、第7話では月を尾行するレイ・ペンパーの本名を探ります。これで1巻が終わり。2巻ではいよいよ月が「犯罪者」以外への殺人を通じ「夢=新世界の神」への階段を上っていきます。
・・・とまあ、一部強引なコジツケはありましたが、主人公のパートナーとの出会いと目的(夢)を提示し、夢に向かう手法を提示しながら1巻の終わりでは2巻への新たなステップを予感させる、と『DEATH NOTE』『バクマン。』と同じような展開の速さ、密度の濃さを構成していることが感じ取れます。
同じくQuinckJapan2008年12月号の担当編集相田聡一インタビューで、
ただ、漫画は展開が早い方が面白い、というのは100%正しいと思う。『DEATH NOTE』の時もそうでしたが、たらたら展開を引き伸ばしてやるよりも、ぽんぽん先に進む、かつ密度が濃いものの方が面白いに決まっている。面白いものが、より面白くなっていく状況を止めてまで、展開を引き伸ばす必要はないですから。(P56)
と語っています。展開の速さと密度の濃さによる面白さの加速というのは『DEATH NOTE』で充分に感じましたが、『バクマン。』もまた同様かもしれません。
『バクマン。』が今後どういう展開になっていくのか。一読者として次巻(およびジャンプ)を楽しみに待ちたいと思います。
【参考】
●QuickJapan12月号に『バクマン。』担当編集者のインタビューが掲載
●『バクマン。』と『DEATH NOTE』を比較して語る物語の「テンポ」と「密度」 『バクマン。』1巻書評
●『バクマン。』と『まんが道』と『タッチ』と。 『バクマン。』2巻書評
●『バクマン。』が描く現代の「天才」 『バクマン。』3巻書評
●編集者という「コーチ」と、現代の「コーチング」 『バクマン。』4巻書評
●漫画家で「在る」ということ。 『バクマン。』5巻書評
●病という「試練」。『バクマン』6巻書評
●嵐の予兆。『バクマン』7巻書評
●キャラクター漫画における「2周目」 『バクマン。』8巻書評
●「ギャグマンガ家」の苦悩 『バクマン。』9巻書評
●「集大成」への道のり 『バクマン。』10巻書評
DEATH NOTE デスノート(1) (ジャンプ・コミックス)
- 作者: 小畑健,大場つぐみ
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