「このマンガがすごい!2008」私家版

2008年もあと数日で終了。そこで、一年を振り返る意味で今年のオススメ漫画をピックアップしてみました。
いわば「このマンガがすごい!2008」の私家版ですね。
対象としては、「2008年に終了した漫画」からフジモリが良かったと思う漫画5作です。
どれも甲乙つけがたいので順不同で行きます。

雷句誠『金色のガッシュ!!』小学館(全33巻)

金色のガッシュ!! (1) (少年サンデーコミックス)

金色のガッシュ!! (1) (少年サンデーコミックス)

まずはこの漫画から。
魔界から来たガッシュという子供とともに激しい生き残り戦に巻き込まれる天才中学生、高嶺清麿。
周囲に壁を作り孤独を好む清麿だが、一途でまっすぐなガッシュと接するうちに自身も変わり始め・・・というお話です。
連載後に様々なゴタゴタがあったものの、まずは連載を無事に、そして綺麗に終えたこと自体に拍手。
古くは「ドラえもん」、最近では「ケロロ軍曹」に代表される、異世界からの客人に人間が振り回される「マレビト」ものですが、さらに「バトル・ロワイヤル」を加えた構成、と言うとぶっちゃけすぎでしょうか(笑)。
しかしながらこの漫画の面白さは、いわば「手垢にまみれた」フォーマットを用いながらも、師匠・藤田和日郎ゆずりの「熱い」展開、「熱い」キャラ、たまに混じる頭のネジがぶっ飛んだ「笑い」、そして魔界の子供とパートナーである人間との別れによる「泣き」と、いわば少年漫画の「王道」を突き進んだところ、そして破綻無く風呂敷をまとめ終了したという2点のみでも、漫画史に残る作品であったと思っています。
特に秀逸だったのが、「人間と魔界の子供がパートナーとなる」という設定。これにより、敗れ退場するキャラたちには必ず「別れ」が発生します。これは擬似的な「死」であり、「死」そのものを描きこみ辛い少年漫画において何十もの「別れ」の物語を埋め込むことができ、読者の感動を誘うことができたのだと思います。
余談ですが、フジモリのベストエピソードはバリー、キッド、ブラゴでしょうかね。甲乙つけがたいです。

とよ田みのるFLIP-FLAP講談社(全1巻)

FLIP-FLAP (アフタヌーンKC)

FLIP-FLAP (アフタヌーンKC)

これは今年の短編(1巻もの)のなかでは最もスマッシュヒットでした。
あらすじおよび詳細はプチ書評と関連コラムをご覧いただくとして、
とよ田みのる『FLIP FLAP』講談社 - 三軒茶屋 別館
『FLIP FLAP』に見るマイナジャンル漫画の「文法」 - 三軒茶屋 別館
ピンボールというマイナな題材に作者お得意の直球ラブコメが見事に絡み合い、読後感爽やかな「良作」に仕上がったと思います。
あーもーフジモリも山田さんとピンボールやりたいなぁ!

漆原友紀蟲師講談社(全10巻)

蟲師 (1)  アフタヌーンKC (255)

蟲師 (1) アフタヌーンKC (255)

こちらの作品も無事幕を降ろしました。
普通の人間には見えない怪異である「蟲」。「蟲師」である主人公ギンコが、「蟲」により引き起こされる様々な謎を解いたり解けなかったりする1話完結の物語です。
「蟲」という「現象(怪異)」を丹念に描く作者の筆致と、「自然」に抗うことのできない「東洋」の思想(物語)が絶妙なハーモニーを見せ、どこか遠くの、しかし身近な「おとぎばなし」を読んでいる気分になります。
現代のアニメ風な線とは、まさに「一線を画す(←うまいこといったつもり)」柔らかな筆致。水墨画を思わせます。
その柔らかな線によって紡がれる物語も、「蟲」を「退治」して「克服する」のではなく、あるときは「蟲」と共存し、あるときは「蟲」の除外を拒みます。単純な排除や克服は手痛いしっぺ返しを食らう。まさに、抗うことのできない「自然」と同一であり、古来から自然を征服することをせず自然と共存する「東洋」の思想です。
「蟲」は怪異であり、抗えない「自然」そのものです。それらといかに「共存」するかがこの作品の大きなテーマであり、一つ一つの物語から様々な思いを感じることができました。

祥人『日がな半日ゲーム部暮らし』メディアワークス(全4巻)

日がな半日ゲーム部暮らし (Dengeki Comics EX―電撃4コマコレクション)

日がな半日ゲーム部暮らし (Dengeki Comics EX―電撃4コマコレクション)

フジモリイチオシの、だらだらゲーム日常4コママンガです。
女子高にあるゲーム部のだらだらとした日常を描く4コママンガ。ぶっちゃけ「あずまんが大王」フォーマットではあるのですが(高校3年で終わるところも同じ)、良い具合に「除菌・脱臭」されたゲーム部の日常を切り取っています。
基本はバカキャラみひろとツッコミ(ゲームマニア)かーはらの掛け合いがメインで、ゲームに関する悲哀をうまく笑いに転化したりしています。
キャラ造型も、「メガネキャラが多いのは趣味です。集団の中にメガネが一人だと「メガネの人」ってのがパーソナリティになってしまってメガネ以外の部分がメガネという記号に埋没してしまうような気がする(1巻P98)」とメガネキャラを半分以上投入したり、「胸はかなり大きい」設定のキャラについて「多分脱いだらお腹もぽったりしてると思います。(1巻P50)」と設定したりと、ある意味潔く挑戦的です(笑)。
なんというか、「ゲームをやりながらだらだらと喋る」あの感覚。ぐだぐだでぬるいあの楽しい感覚を、常に味わい続けることのできる漫画だなあ、と思います。

森薫『エマ』エンターブレイン(全10巻)

エマ (1) (Beam comix)

エマ (1) (Beam comix)

最後はこの漫画。
ヴィクトリア朝時代のイギリスを舞台に、メイドのエマと貴族のウィリアムとの身分違いの恋を描くラブロマンスです。
作者がこの時代(およびメイド)が好きということで、とにかく、この時代(舞台、背景)と人物の描写が半端ないです。
時代背景をしっかり勉強し、小物一つにもこだわりが見られます。
敢えて断言するならば、「細部にまで神が宿っている」(そう、アンケートハガキにさえも!)描写だと思います。
物語は階級社会におけるエマとウィリアムの身分違いの恋を丹念に描いていますが、脇を固めるキャラも魅力的で、脇役に照明が当てられる本編終了後の短編集では更にその魅力が倍化します。
そして、最終話ではそれらのキャラたちが一同に介し、(ネタバレ→)二人を祝福します(←ここまで)。この最終話も屈指のエピソードであり、「この漫画を読んできて本当に良かった」と感じること請け合いです。
あー、良い物語を読んだ、と心から言える作品だと思います。

挙げればきりがないのですが、とりあえずフジモリの2008年ベスト5はこの作品です。
時間があれば「2008年に始まった漫画で注目しているベスト5」と「現在連載している漫画ベスト5」についても語ってみたいのですが、またの機会に。
みなさんの2008ベスト5もお聞かせいただければ幸いです。
それでは2009年もよい漫画ライフを!